歯周病は全身性疾患の原因になるだけでなく、妊娠や出産にも良くない影響を与えるということを知っていましたか?
どんな病気を誘発してしまうのか、歯周病に罹っている人と罹っていない人では妊娠力に差があるのか。
歯周病と不妊について、秋山レディースクリニックの秋山芳晃先生に詳しいお話を伺いました。
糖尿病など全身性疾患の発症原因になることも
歯周病は口腔内だけでなく、全身の疾患に影響を及ぼします。
たとえば糖尿病。腫れた歯肉から血管内に侵入し、全身に回った歯周病の原因菌は免疫の力で死滅しますが、歯周病菌に含まれる内毒素(エンドトキシン)と呼ばれる物質は残り、これが血糖値に悪影響を及ぼすと考えられているのですね。
血液中の内毒素は脂肪組織や肝臓からのTNF‒αという免疫物質の産生を推し進め、このTNF‒αが血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを妨げることによって、血糖値が下がりにくい状態に。歯周病は糖尿病の合併症の1つと考えられており、糖尿病が悪化すると歯周病も悪化するとされています。
また、歯周病があると心血管疾患を招くリスクも上昇。歯周病原因菌などの刺激により動脈硬化を誘導する物質が分泌され、血管内にプラークと呼ばれる沈着物ができることで血管が狭くなり、心筋梗塞や脳梗塞を誘発することもあります。
ほかに、慢性腎臓病や関節リウマチなど自己免疫疾患の発症にも歯周病が関与していることがわかってきているのですね。
歯周病の人は妊娠が成立するまで時間がかかる!?
これらの疾患以外に、歯周病は妊娠にも影響があるのではないかと考えられています。
歯周病の代表的な原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)に対する抗体が高い(感染の程度が強い)と抗体が低い女性に比べて妊娠成立まで長い時間がかかるという報告や、妊娠を希望してから妊娠成立するまでの期間を比較すると、歯周病に罹っている女性は平均7.1ヵ月で、歯周病ではない女性の平均期間(5.1ヵ月)と比べて長くなるという報告があります。
また、女性だけではなく男性にも影響があるとも考えられており、重症の歯周病を発症している男性は精子の運動性の低下や勃起不全の頻度が高くなるというデータもあるようです。
さらに、不妊原因の1つに子宮内膜症がありますが、実はこの疾患も歯周病と関連があるのではないかといわれています。
子宮内膜症は子宮内膜、またはそれに似た組織が何らかの原因で本来あるべき子宮内腔以外の場所で発生し発育する疾患です。
歯周病のある子宮内膜症の患者さんを手術した際、摘出した子宮内膜症の組織から歯周病菌の1つであるポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)が検出されたという研究結果があり、子宮内膜症の病態に歯周病が関与している可能性があるのではないかと考えられているのですね。
歯周病が妊娠成立に及ぼす影響についてその詳しいメカニズムはまだわかっていませんが、歯周病が全身に及ぼす影響を考慮すると、妊娠にとっても良い影響はないということは明言できるでしょう。
妊娠後も影響があるので今からきちんと口腔ケアを
妊婦さんの歯周病が早産や低出生体重児・妊娠糖尿病などの産科的な問題と関連していることは明らかになってきており、「産婦人科診療ガイドライン産科編」にも妊婦・授乳婦のう歯・歯周病に対する注意点として、「歯科医師と連携し、妊婦・授乳婦に適切な口腔ケアをすすめる」と記載されています。
不妊症との関連はいまだ不明な点が多いのですが、少なくともプレコンセプションケアとしての歯周病治療や正しい口腔ケアは重要なのではないかと思います。