これからの 不妊治療の進め方

保険診療と自由診療、どう使い分ける?

保険は使ったほうがいいのか、これまでの治療はどうなるのかなどをお聞きします。

今後、治療を進めるうえで大切なのは、保険でできるのか、できないのかを正しく理解すること。施設選びや賢く治療を受けるためのポイントについて4 月23 日に開催された小田原靖先生のオンラインセミナーより抜粋してお届けします。

ファティリティクリニック東京 小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987年、オーストラリア・ロイヤルウイメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大学産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996年恵比寿に開院。

従来の不妊治療と保険適用後の違い

保険適用によって経済的な負担が減り、不妊治療は確実に受けやすくなりました。一般的な治療を続けていた患者さんからは、保険がきっかけで次のステップに移れる、という声も届いています。全国で画一的に治療が受けられるようになり、施設の選択肢も今後さらに増えていくことでしょう。

しかし、従来の不妊治療は、年齢や卵巣機能、薬の反応性、胚の質、着床側の状態など、一人ひとり異なるケースに合わせた個別の治療法を選択してきたという背景があります。

日本のARTの平均年齢は40歳。年齢が上がるほどに妊娠率は下がり、流産率は上がるので、30代と40代では治療成績の差は明らかです。しかし、今回決まった保険適用の内容は、もっとも治療数の多い年齢層に対して多くの制限が定められており、移植時に子宮内膜を厚くする薬剤(PRPやバイアグラRなど)も適用外になります。高年齢、低AMH、反復流産、体外受精の反復不成功、着床不全など厳しい条件に対して保険で治療成績を保証するのは難しい状況になることも考えられるでしょう。特に40歳以上なら移植回数など制限があるなかでの治療はやはり厳しい面があるので、費用的に可能であれば自費診療を考えたほうがよいかもしれません。

逆を言えば、35歳以下で卵巣機能やAMH値が高い人、これから治療を始める人、大きな不妊要素がない人であれば、保険の範囲内で十分に妊娠・出産が望めると思われるので、まずは保険診療を選び、結果が出なければ自費診療に移行するか否かを考えるというスタンスでよいでしょう。

これからの施設選びは正しい情報収集が不可欠に

今まではARTを提供する施設に対して厳しい審査や認証制度などもありましたが、保険診療では基本的にどんな施設でも申請できます。そのようななかで、何を基準に選べばよいのか迷うこともあるでしょう。

ポイントとして、まずは生殖医療専門医であることが大前提です。厳格な審査を受けているPGT – A認証施設であることも現時点では判断基準になるでしょう。

また、採卵150例あたり最低1名の胚培養士が在籍し、ダブルチェックなどヒューマンエラーを防ぐためのシステムを構築・徹底しているか。そのような意識をもった施設かどうかなど、きちんと情報を得たうえで選ぶことを心がけましょう。

保険制度のメリット

・保険により不妊治療へのアクセスが良くなる。

・治療にかかる経済的な負担の減少、特に若い世代が 治療を受けやすくなる(高額療養費の還付を含めれば)。

・全国どこへ行っても同じ治療が受けられる。

・万一副作用があっても保険で治療が可能。

保険適用Q&A

保険適用に対する不安や質問の声に、一つひとつ丁寧にお答えいただきました。

これから通院を考えていますが、病院が自分に合わなかった場合、セカンドオピニオンだと、追加費用がかかると聞いたことがあります。セカンドオピニオンだと保険適用外になってしまうのでしょうか? ( ベルガモットさん27 歳)
セカンドオピニンというのは基本的に自費になります。ただ、病院が自分に合わなかった場合は病院を変える、という選択肢があるので、特にセカンドオピニンにこだわる必要はないでしょう。その病院で基本的な検査を受けたとしても、検査結果は患者さん自身の所有物です。転院先にそのデータを持参し、まずは保険の適用内で治療を始めてみればよいのではないでしょうか。
保険で採卵や融解胚移植をする場合に使えない薬剤はありますか? また、使えない薬剤がある場合、保険適用での採卵や融解胚移植で受精卵や妊娠出産に影響はありますか?(卵子の質や妊娠継続が難しいなど……)( みみさん41 歳)
不妊治療に用いるスタンダードな薬剤は保険適用になっているので、保険の有無で卵子の質などへの影響は特にないと思われます。一方、子宮内膜を厚くするなど移植にかかわる薬剤には制限があるため、内膜が薄い方には少し厳しい状況になるかもしれません。これから治療を始める方であれば、まずは保険の範囲内でトライし、なかなか結果が出なければ自費診療にするかどうかを検討する、というスタンスが現状ではベストではないでしょうか。
不育症について、何か情報があれば知りたいです。不育症の検査や治療で保険適用になったもの、現在申請中のものなどがあれば教えてください。( もりこさん39 歳)
今回は不妊症に関する保険制度のため、不育症は含まれません。何が不育症に有効なのか評価は難しく、我々専門医の間でも意見が分かれています。一般的に処方されているアスピリンやバファリン®なども、現状では効果が明確ではないということで、保険適用外です。ただし、着床を妨げる原因としてTh1/Th2 細胞のバランス異常が考えられているので、その治療薬である免疫抑制剤タクロリムスは先進医療A として申請中です。
現在、着床前診断のための凍結受精卵3 個。私は一度の治療で卵胞が1〜2個しか育ちません。このまま着床前診断に向けて治療を続けるのか、保険適用で体外受精をしてもいいのか悩んでいます。助成金は使い切りました。( めぐみさん40 歳)
卵巣の反応が良く、受精卵が多く得られる方でなければ着床前診断は難しいかなというのが私の印象です。卵巣刺激をしても卵胞が育たなければ、検査に必要な胚盤胞の個数を得ることはできず、しかもすべて自費になります。このようなケースでは、私なら保険適用内での治療を提案するでしょう。どちらがいいのか判断は難しいところですが、卵巣の反応性や薬の使い方など、主治医の先生とよく相談して検討していただければと思います。
人工授精4回して授からなかったので、保険での体外受精を希望していますが、保険適用の場合、1回目は新鮮胚移植、2回目なら凍結胚移植になると聞きました。1回目から凍結胚移植はできないのでしょうか? ( はんなはんなさん35 歳)
保険適用での採卵、全胚凍結は可能です。最初は新鮮胚移植で2回目以降に凍結を、という考えの先生もいらっしゃると思いますが、必ずしも新鮮胚で戻さなければならない、ということではありません。全胚凍結は妊娠率が高く、妊娠するタイミングを自分である程度は能動的に決めることができるというメリットがあります。基本的には患者さん自身の希望に応じてくれると思いますので、主治医の先生に相談してみてはいかがでしょう。

多くの意見を国に投げかけ、より良い保険制度を目指す

保険制度が施行された以上、できるだけ保険の範囲内で治療を提案し、問題点や改善の方法などを厚労省と国に投げかけていくのが不妊治療に携わる私たちの義務だと思っています。国も現場のさまざまな意見を確実に取り入れて、もっと良い制度設計にしようと考えてくれるはずなので、ぜひ皆さんもより良い治療を受けられる保険制度の確立に向けて、一緒に声をあげていただければと思います。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。