非閉塞性無精子症と 診断されたら?
無精子症が不妊の原因の場合は、どのような治療を選択し、どの ように治療に取り組んでいけばいいのでしょうか?
治療につい て気をつけなければならないことや知っておきたいこと、そして、 夫婦の心構えや治療の決めどき&やめどきについて、セントマ ザー産婦人科医院の田中温先生に教えていただきました。
ドクターアドバイス
男性不妊の原因となる 2種類の無精子症
無精子症には閉塞性と非閉塞性があります。閉塞性は精子をつくる能力は正常ですが、精子が通る精管の一部が閉塞しているため射精ができません。非閉塞性は精巣の機能が著しく低下しているため精子をつくることができません。特徴は自分の目で判断できるほど睾丸が小さく、精巣に精子をつくれと司令を出すホルモンのFSHの数値が高いこと。これは精子がつくられない状況を補うために過剰な分泌量となるためで、数値が 10mIU/ml 以上なら非閉塞性だと思われます。
まるさんのご主人が非閉塞性無精子症であることは間違いないようですし、FSHが 60mIU/ml と特に高いので、ク ラインフェルター症候群の可能性も疑われます。遺伝子検査も行うようですし、いずれにしても正しく判断するために適切な検査を受けることをおすすめします。
正しい知識を得て ベストな方法を選ぶ力を
閉塞性では精巣上体に集められて妊孕能力を得た精子が容易に採取でき、顕微授精を行うことが可能となります。採取方法は精巣上体という部位にガラス製のピペットを刺して精子を採取する精巣上体精子回収法(MESA)という方法です。手術は約 30 分で当日帰宅が可能、1回で大量の良好精子を採取して凍結できるので、費用も割安です。
国内では、顕微鏡下精巣内精子回収法(Microー TESE)という方法が一般的であり、これしか知らない、また、主治医から提案されるのがこの方法のみという患者さんが大多数でしょう。しかし、精巣を切り開いて精子を採取するため傷が深く、回復まで1〜2週間を要する場合も。施設に凍結技術がなければ顕微授精のたびに切る必要があります。当院に転院された患者さんの中には何度もメスを入れたあとが残っている人も珍しくありません。痛い思いをして費用が高く、時間もかかる採取法なのか、それともダメージの少ない方法を知って選択するのか。よく考えていただきたいですね。
非閉塞性無精子症はMicroー TESEが一般的で、精子採取率は 30 〜 40 %ありますが、半分近くは死滅精子や奇形精子が多く、正常な精子が採取できる確率は約 10 〜 20 %です。精子がなければ子どもを諦めるか第3者の精子をもらう、養子縁組の選択肢しかないのが一般的な認識です。精子が採取できない患者さんの半数には精子になる前段階の円形精子細胞が存在していて、その細胞を用いた円形精子細胞卵子内注入(ROSI)という治療法があります。現時点での出産率は 10 %と低いですが、生まれた子どもの予後調査では知的・身体的能力に問題はありませんから、挑戦してみる価値はあると私は考えています。
不妊の悩みは世界共通ですが、特に日本では治療に対する男女の温度差の開きが大きいように感じます。治療自体が人生すべてを左右する、というほどに追い詰められている人も多く、特に女性にその傾向が多く見られます。しかし、今後も続く二人の人生をどう描くのかは二人次第。治療が長期化するほど夫婦仲が悪化しがちですが、一度歯車が狂うと修復するのは難しいですよね。何事も決めどきとやめどきというものがありますから、年齢や誕生日をきっかけにするのか、夫婦二人だけの人生を選ぶのか、 精子提供という方法を選ぶのか、今後の選択を二人でしっかり考えていただきたい。幸せの形が多様化している現代だからこそ、自分たちの幸せを見つけていただきたいですね。