Q ホルモン補充周期に抵抗が…。 自然周期でも移植できる?
山下 能毅 先生 大阪医科大学医学部を卒業後、北摂総合病院産婦人科部長・大阪 医科大学産婦人科病棟医長、医局長、講師として、不妊治療や腹腔 鏡手術に積極的に取り組む。2014年、宮崎レディースクリニックの副 院長に就任し、2017年4月、同院の院長に。
ドクターアドバイス
●ホルモン補充周期は排卵日を調節できるのでスケジュールを立てやすい。
●月経周期が安定していて自然に排卵していれば自然周期での移植もOK。
続さん(32歳)からの相談 Q.初めて凍結融解胚移植をするのですが、卵子が17個採 卵できたので、新鮮胚移植はせず、おそらくピルを使って 生理を早めて移植をするようです。採卵の時にたくさん注 射を打って効きすぎたので、正直ホルモン補充するのには 抵抗があります。先生は、着床率がいいホルモン補充にし たそうなのですが、自然周期ではダメなのでしょうか?
ホルモン補充周期に抵抗があるそうです。 自然周期との違いなど教えてください。
山下先生 体外受精で凍結融解胚移植を行う場合、移植の周期には「ホルモン補充周期」「自然周期」「排卵誘発周期」の3つがあります。
「ホルモン補充周期」は卵胞ホルモン(エ ストロゲン)剤を使って、子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態にする人工的な方法です。おもな適応はPCOS(多囊胞性卵巣症候群)などが疑われる月経不順の人です。少ない通院回数で排卵日を決めて移植できることや、移植日を2〜3日調整できるのでスケジュールを立てやすく、仕事が忙しい人が希望されることも多いですね。ホルモン補充は移植後〜8週目あたりまで、ほぼ毎日行いま す。当院は貼付剤(エストラーナⓇ)と飲み 薬(プレマリンⓇ)の2種類のホルモン剤を使い分けています。肌が弱くて貼付剤にかぶれやすい人、飲み薬の副作用で吐き気などをともなう人など、患者さんそれぞれの状態に合わせた薬を選びます。
「自然周期」は薬を使わず、体内から自然 に分泌される黄体ホルモンを活性化して移植する方法で、月経周期が安定し、自然の排卵があることが前提です。薬を服用する負担は少なくなりますが、排卵日を特定する卵胞チェックを数回行いますので、移植日などのスケジュールを立てるのが少し難 しくなります。
「排卵誘発周期」はホルモン補充周期と自 然周期の中間型で、セキソビットⓇなどの排卵誘発剤を使い、排卵を確認したうえで移植を行う方法です。当院では、自然周期で排卵しにくいけれど、ホルモン補充周期に抵抗がある人などにおすすめしています。
自然周期での移植は可能でしょうか? アドバイスをお願いします。
山下先生 月経周期が 28 〜 31 日とのことで すね。おそらく排卵していると思いますので自然周期でされてもいいと思います。基本的にホルモン補充周期でも自然周期でも、移植ができれば成績は変わりません。ただし、繰り返しになりますが、自然周期は自然に排卵していることが前提で、月経不順の人にはホルモン補充が不可欠です。
移植法についても凍結融解胚移植は適切な選択だと思います。当院は治療を完遂する目的で、体外受精が初回の人に限って新鮮胚移植(採卵時の E 2が2500 pg/ ml 以 下でOHSSのリスクがなく、移植法に希望がない人が対象)を行うことはあります。日本は凍結技術が進んでおり、新鮮胚移植はほとんど行われなくなっているのが現状です。結果的にホルモン補充周期の凍結融 解胚移植の成績が一番いいということも背景にあると思います。
また近年はタイムラプスの自動解析で、こ れまで以上に精密な妊娠継続可能胚のセレクションができるようになってきています。若くても移植でなかなか結果が出ない人は、このようなオプションを利用して妊娠率を高める可能性もあります。