俵史子先生の生殖周産期 講座〜妊活中から始める母体管理〜
妊娠がゴールではなく、母子ともに元気で出 産することが最終目標です。
俵IVFクリニック では産科に移る妊娠12週まで診察する「生 殖周産期外来」を新設。
今回は妊娠糖尿病 について、俵史子先生と周産期専門医の村林 奈緒先生に詳しいお話を伺いました。
妊娠糖尿病って?
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見された糖代謝異 常です。妊娠により引き起こされる状態で、妊娠前から 糖尿病と診断されている人や、妊娠中に明らかな糖尿病 と診断された場合は妊娠糖尿病に含まれません。
妊娠すると血糖値が上がりやすいの? 妊娠糖尿病はなぜ起こる?
妊娠中は胎児に栄養として糖を供給する必要があるので、血糖値が上昇しやすい状態になります。これはインスリン抵抗性と呼ばれており、血糖を下げる作用のあるインスリンが働きにくくなってしまうんですね。胎盤から合成・分泌されるホルモンHPL(ヒト胎盤性ラクトーゲン)などが原因となって、このような状態が起こるといわれています。
通常は胎児に行く糖分もあるので、需要と供給のバランス がうまく保たれていれば血糖値が異常に高くなることはないのですが、このバランスが崩れてしまうと血糖が上がりすぎた状態となり、妊娠糖尿病を発症します。
特に胎盤からのホルモンが増加する妊娠後期にはインスリン抵抗性が強くなるため、食後の血糖が上がりやすい状態になります(村林先生)。
妊娠糖尿病の検査は どのタイミングで行う?
妊娠中の初期と中期の2回、採血によるスクリーニング検査を行って、妊娠糖尿病かどうか確認します。この検査で陽性と判断された場合はブドウ糖負荷試験を行って確定診断をするのですが、もともと日本人はインスリン分泌が少ない人種であることに加え、高齢妊娠も増えてきているので、最近は妊娠糖尿病と診断される人が増えてきています。割合でいえば全体の 8.5 %程度。 11 ~ 12 人に1人くらい は妊娠糖尿病になるといわれているんですね。
妊娠初期に関しては、随時血糖値(食事をしていても構わない)が 95 または100 mg/ dl 以上で陽性と判断されます(村林先生)。
妊娠糖尿病になると 赤ちゃんにどんな影響がある?
母体の血糖が高いと胎児の血糖も高くなります。インスリンは細胞を育てる作用があるので、胎児が大きくなりすぎて巨大児(4000g以上)になる可能性も。通常、胎児は頭が一番大きいのですが、血糖が高くて巨大児になった子は頭より体のほうが大きくなり、分娩の時に詰まってしまう肩甲難産といわれる状態になることもあります。
また、胎盤の機能も低下するといわれており、その場合 には胎児の心拍数が低下したり、最悪のケースでは胎児死亡を起こすこともあります。
さらに、初期の血糖コントロールが非常に悪いと、胎児 の先天異常の確率が高くなるともいわれています。四肢欠損とか脊椎の下のほうがうまく形成されないような異常です。一つの指標になるのがヘモグロビンA1c(HbA1c)という値。この値が 6.4 %以上だと先天性異常の割合が5.4 %、 7.4 %以上だと 17 ・4%という報告も。妊娠糖尿病と 診断されたけれど、HbA1c値が正常範囲内であれば、先天性異常の割合は妊娠糖尿病でない人と同程度といわれています。
出産時に異常がなくても、妊娠糖尿病になると将来、お子 さんが糖尿病になるリスクが高くなるという報告もあるので、お母さん、赤ちゃんともに健康な状態で妊娠継続、出産するためには、きちんと血糖コントロールをすることが重要になってきます(村林先生)。
妊娠糖尿病になりやすい人の 特徴や予防法は?
当院ではこれまで受診した患者さんの症例を集計して、どのような人が妊娠糖尿病になるリスクが高いのか調べてみました。まず家族歴。ご家族に糖尿病の人がいる場合は通常の2・ 13 倍発症しやすい。それから排卵障害のある人。 排卵障害はPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の方などがなりやすいのですが、PCOSでなくても月経周期が長いと2・ 96 倍と、 3 倍近く妊娠糖尿病のリスクが高くなります。 さらに体重過多でBMIが高い人が 2.6 倍、年齢が高い人は1.3 倍という結果が出ています。
妊娠糖尿病を予防するために、当院では妊娠糖尿病のリ スクが高い方に不妊治療の段階からアプローチして、リスクを減らす試みをしています。たとえば肥満の人には食事指導や運動療法を取り入れるなど、血糖が上がりにくい状態を普段から心がけるように妊娠前から指導しています。当院で妊娠糖尿病になった人は全体の 2.6 %(2017年統 計分)。一般的な発症頻度は 10 %近くですから、やはり妊娠 前からの管理が大切だといえるかもしれません(俵先生)。