自分の子宮内環境を詳しく知り妊娠に近づける3つの検査
近年、子宮内環境が妊娠に大きく影響していることがわかり、注目を集めている子宮内膜検査EndomeTRIO」。
なかでも反復不成功例への有効性について、うめだファティリティークリニックの山下能毅先生に伺いました。
ERA検査後に胚移植した40%の患者さまが初妊娠
以前から生殖医療分野では、体外受精で良好胚を複数回移植しても妊娠にいたらない反復不成功例の原因の一つとして、移植のタイミングとなる着床「ウィンドウ」のずれが指摘されていました。しかし、これまで移植日はホルモン補充の開始から6日目とされ、個別に特定することが困難でした。
近年開発されたERA(子宮内膜着床能検査)は248種類の遺伝子を解析し、個々の移植日を特定する有効な検査として、国内でも導入する施設が増えています。
当院は2017年にERAを導入し、初回の検査で3回以上の採卵歴があり、一度も妊娠されていない反復不成功例の 53名の患者さま(平均年齢36歳)を対象に検査を行いました。その結果、約半数の人の着床ウィンドウが、移植日とされる日の前後にずれていることがわかりました。さらにERAで特定した日に移植を行った37名のうち 15名が妊娠されました。これは一度も妊娠されなかった方々にとって大きな成果です。その後の当院の成績をみても、ERAは反復不成功例において一定の効果が期待できると考えています。
移植日のずれがない場合は正確な移植時間を教えてくれる
ERAの手順は、まず移植日を正確に特定するため、ホルモン補充の24 時間前に血液検査を行います。その後、ホルモン補充を開始して 6日目にERAを実施します。この時子宮内にやわらかいチューブを入れて、子宮内膜を吸引するように採取します。人によっては生理痛のような鈍痛を感じることがあります。痛みに弱い方は事前に坐薬を投与し、痛みをやわらげて行います。採取した検体をスペインにある I g e n om i x 本社に送り、3週間ほどで検査結果がわかります。たとえば結果は「あなたの着床ウィンドウは、ホルモン補充の開始から10時間後です」というように具体的な移植時間が記されます。ERAのすぐれた点は、移植日とされる日の前後のずれを指摘して最適な移植日を特定するだけでなく、検査の結果、移植日がずれていない場合も正確な移植時間を教えてくれることです。実際に移植日がずれていない人にも結果通りに移植すると妊娠率は 50%上がります。
ただ現状では、ERAは移植日とされる日の前後12時間から24時間以内の着床ウィンドウのずれしか特定できません。なかには後ろに24時間以上ずれている方が1〜2見つかり、当院にも年間2名ほどいらっしゃいます。このような方は再検査が必要になることがあります。
「PGTーA」と「ERA」の2検査で高い妊娠率を期待
当院は良好胚を2回移植しても結果が出ない反復不成功例の方にERAをおすすめしています。反復不成功例の原因は、子宮側と受精卵(胚)側、その両方に問題があると考えられています。受精卵側の問題が強く疑われる場合は、移植前に胚の染色体数を調べるPGTーA(着床前染色体異数性検査)を行うと妊娠率は60%に上がります。そこで、少しでも妊娠に近づけるためにPGTーAを行った方にERAをご提案することもあります。
高額な検査になりますが、どちらも希望される方は少しずつ増えています。 2020年はPGTーAの臨床研究の スタートとERAの普及により、生殖医療分野にとっては革命的な年になりました。反復不成功例はPGTーAによる良好な胚盤胞の選択とERAによる個別化胚移植で妊娠率の向上が期待できます。さらに子宮内膜の活性化をうながすPRP(多血小板血漿)療法の普及が加速することで、もともと子宮内膜が薄い方や高齢の方の治療の幅も広がっていくと思います。
子宮内膜の健康状態がわかる「E n dome TRIO」
子宮側の原因を調べる検査には、ERAのほかにEMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)とALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)があります。1回の検査で3つを同時に調べることができるので、当院では80%の方が「EdomeTRIO」を希望されます。 EMMAは子宮内の細菌叢を調べる検査です。60〜70%の人は子宮内膜にかかわる乳酸菌の濃度が低下しています。このような場合は乳酸菌を補う腟剤で子宮内膜環境を整えることができます。また、ALICEは子宮鏡検査やCD138検査では発見が難しい慢性子宮内膜炎予備群や原因菌を特定できます。以前は慢性子宮内膜炎に対してビブラマイシンⓇというお薬を盲目的に投与する治療しかありませんでした。
その点、EMMA/ALICEは複数のお薬の中から原因菌別に処方し、その投与期間も教えてくれるため、確実な治療が可能です。
スペイン発の「EndomeTRIO」は欧米人のビッグデータにもとづいた検査です。今のところ検査精度に問題を感じたことはありませんが、これからアジア人のデータが蓄積されることで、さらに検査精度が向上し、治療のスタンダードになっていくかもしれません。反復不成功例で治療を諦めかけている方は、何も手立てをしないよりは検査を試されることをおすすめします。新たな道が開けることもあります。