今年は例年より早く気温が下がりはじめ、「冷え」が気になる人にとってつらい季節になりました。「冷え」は不妊にどのように影響するのでしょうか。また、体が冷えがちな季節でも不妊治療を成功させる秘訣は? 厚仁病院の松山先生と同院で鍼灸を担当す る中村先生にお聞きしました。
ドクターズアドバイス
多少の冷えくらいなら不妊の原因にはなりません
・適度な運動で体の深部温度を上げる工夫をしましょう。
・卵巣の血流量を上げる治療方法も検討を。
「冷え」を改善するよりも血流を良くすることを意識して
松山先生● 当院では、採卵成績や着床後の経過が良くないなど不妊治療がうまくいかない方で、さまざまな検査をしてもこれといった原因が特定されない事が多々あります。個人の基礎体力を上げなければうまくいくものもいかないのではと考えられることもあります。そのような患者様には、十分な栄養摂取や睡眠、適度な運動を日常的に意識し基礎体力を十分に整えるよう提案しています。
ただ単に栄養を摂っても体内の必要な場所に行き渡らなければ意味がありません。血流を良くすることが重視されているのは、そのような理由からです。「冷えは良くない」と一般的に言われるのは、体が冷えると血流が悪くなるという解釈からくるものだと思います。血流を良くする管理法で患者様に自信をもっておすすめできるものがあれば当院にも
取り入れたいと常々探していました。その中で出会ったのが、鍼灸師の中村先生です。日本レーザーリプロダクション学会でたまたま中村先生の発表を聞いたことがきっかけですが、まず先生の鍼灸治療にはエビデンスがあり、理論的にも私自身が納得できる内容でした。ぜひ当院に取り入れたいという願いが通じ、 2 0 1 9 年の1月から中村先生のチーム(JISRAM)による鍼灸施術を開始することができました。
鍼治療と低出力レーザーで卵巣の血流量を上げる
中村先生●多少の「冷え」と不妊は直接的には関係ないと思っています。体表の温度が多少低くても内臓の温度はほとんどの場合、正常に保たれているからです。特に女性は男性に比べて筋肉が少なく皮下脂肪が多いので体表の温度は低いですが、内臓の温度は正常なので必ずしもそれが悪いとは限りません。もちろん、雪山で遭難して意識が遠のくような寒さとは別の話ですよ。
毛細血管は交感神経と副交感神経で調節しています。交感神経が優位になると血管が収縮し、副交感神経が優位になると弛緩します。血液の流れを車の運転に置き換えてみましょう。幹線道路が空いていればみんなその道路ばかりを使いますが、渋滞になると細道へ迂回しますよね。太い血管が収縮することで血液が毛細血管まで行き渡るのです。
ですから、女性の脚は若干冷えていて交感神経が優位になり血管が収縮しているほうが内臓の血流量は高まります。一般的に「冷え」は悪いと言われるのはなぜかというと、不快だからです。では、冷えを解消するにはどうすれば良いか。適度な運動をして筋肉を使うことで熱生産量を増やすことが一番です。
また、私たちが行っている鍼灸は、卵巣にレーザーを当て、ある一定の場所に鍼治療を施すことにより卵巣の血流量をアップさせ、酸素や栄養を卵巣に行き渡らせるという方法です。ですから、脚が多少冷えていても卵巣の血流量は上げられます。
体の表面の「冷え」ではなく、 内臓の「冷え」に注意
松山先生●当院が取り入れている方法は、低出力レーザーと鍼灸を組み合わせることで子宮や卵巣の血流量を上げていくことを目的としています。
まず主たる治療をしても結果が出ない方については、統合医療をいろいろとおすすめしています。レーザーと鍼灸はその中の一つではありますが、導入して2年近くになった今では順番待ちが出るくらい患者さまの期待を集めています。
体表の温度と臓器の温度が違うのは、中村先生のおっしゃるとおりで、冷え性の人で体表だけでなく深部温度が低い人は改善したほうがいいと思います。暑い夏でも寒さを感じる方は、深部温度が低い可能性がありますね。