次回も周期が早ければ 同じ治療をすると言われ 治療方針に不安です
絹谷 正之 先生 愛媛大学医学部卒業。広島大学医学部産科婦人科学教室入局。その 後、東京の山王病院リプロダクションセンターにて高度生殖補助医療研 修、顕微授精を修得。1999年にはカナダ、アメリカにて高度生殖補助医 療研修を行う。2000年、絹谷産婦人科副院長、2002年より院長に。 広島県産婦人科医会常務理事。ISO9001やJISART(日本生殖補助 医療標準化機関)の認定を2010年〜2011年に取得。今年の春から、 ビデオやスライドを使用して、妊娠のしくみや、不妊症の検査や治療、当院 の方針などを解説する「初診前説明会」を開始。説明会に参加された方の 治療はとてもスムーズで、患者さんのためにもよかったと手ごたえを感じてい るそう。
ひーらんさん(31歳)からの相談 Q. 治療年数1年、タイミング療法中です。一般的な不妊検査を行い、特に問題はないよう なのですが……。基礎体温や排卵日検査をするかぎり、30日周期らしいのですが、現 在、25日周期なので、排卵後にプロゲテボーⓇ注射を2回しました。しかし、今回はいつ ものように排卵後の基礎体温が上がらず、排卵検査をすると22㎜程度の卵胞が残って いたようです。「HCG注射をして、基礎体温が上がったのをみて、あとは生理が来るの を待ってください」と先生に言われました。仮に生理が来ても、早かった場合は注射の量 を増やし、同じ治療をするようです。 今の病院は不妊専門ではないので、「治療方針は大丈夫なのか」「別の専門病院に転院 したほうがいいのか」など悩みます。今回はいつもと違い、腰が痛かったり、胸が大きく なったり、多少の吐き気があったりしますが、薬の副作用かなとも思っています。このままでいいか不安です。
薬の影響??
治療内容について、どう思われますか?
絹谷先生 ひーらんさんの場合、黄体ホルモンが不足しているので、注射することで補ってみようということで治療されているのだと思います。
血液検査や子宮卵管造影検査、ヒューナーテストを受けられているようなので、おそらく検査を受けたなかで黄体ホルモンの測定を血液検査でされているのではないでしょうか。
基礎体温や排卵日検査をするかぎり、 30 日周期と同じとのことですが、現在は 25 日周期で短くなっているので、排卵後が10 日くらいしかない。
普通なら2週間くらいなので、黄体ホルモンが不足していると判断され、補うために注射されたのでしょう。
黄体機能不全は、高温期が 10 日未満、高温期と低温期の差が 0.3 度未満か、黄体ホルモン 量の値が 10 ~ 15ng / mL 未満 (施設により異なる)で診断します。
また、注射後に不調が現れているようです が、黄体ホルモンが増えると胸が張ったりします。
確かに薬の影響だと思うので、心配ないでしょう。
HCGを投与すると、長く体に作用するので、その影響ではないでしょうか。
専門病院へ行く目安
今後の治療にアドバイスはありますか?
絹谷先生 担当の先生は、卵管や精子は大丈夫で、黄体機能が悪いくらいだから黄体ホルモンの注射で様子を見ておられるのでしょうね。
これまでの結果で異常が見受けられないので、それで妊娠できる可能性はあると思います。
あとは、この治療を続けられて6カ月くらいが目安でしょうね。
半年くらい治療を受けて結果が出なければ、不妊治療の専門病院へ転院してもいいのかなと思います。
また、ひーらんさんは黄体ホルモンの補充 に注射を投与されていますが、そのほかに内服薬もあります。
むしろ1~2回の注射だけ投与するのは一般的ではなく、内服薬で補充することが多いです。
ただ、通院回数の問題など事情があるのかもしれませんね。
黄体ホルモンを補うという方法以外に、黄体ホルモンの分泌を促すという方法もあります。
その場合はHCG注射をします。
HCGは黄体ホルモンではなく、妊娠すると絨毛(やがて胎盤になる部分)から分泌されるホルモンで、黄体形成ホルモンと構造が似ていて、黄体を刺激する作用があります。
考え方はさまざまですが、HCG注射の場合は作られた黄体ホルモンではなく、内因性、すなわち自分の黄体ホルモンが増えることになります。
当院でも状況に応じて、ホルモンの補充方法を変えています。
HCG注射だと、投与のために何回か通院をしないといけません。
なかなか通院できない方には内服薬を処方しています。
もう一つ気になるのは、HCGの注射を投 与後に体温が上がったようですが、本当に排卵したかが未確認ですよね。
卵胞が破裂せずに遺残するLUFSが起こっている場合もあります。
もしかしたら体温は上昇していても、破裂せずに残っているのかも。本来は確認したほうがいいでしょう。
※非破裂卵胞黄体化症候群(LUFS):卵子が卵巣内で十分に成長しているにもかかわらず、卵胞が破裂せず排卵できないまま黄体化する。黄体ホルモンは分泌され、高温期が続く状態。卵巣の癒着、子宮内膜症などが関係す るといわれる。