操 良 先生 岐阜大学医学部卒業。岐阜大学附属病院で8年間、不妊専門外来を担 当し、1992年には岐阜県下初の体外受精に成功。女性ホルモンに関す る研究成果が認められ、平成9年度に岐阜県医学研究奨励賞を、平成11 年度に日本内分泌学会で研究奨励賞を受賞。現在、操レディスホスピタル 副院長。医学博士。日本生殖医学会認定医。地元新聞の紙面でも不妊治 療に関するコラムを執筆している先生。「皆さんからの質問内容を改めて調 べることで、私自身、わかることがたくさんあります。特にジネコの読者さんの 相談は具体的で勉強になりますね」。
とまはるさん(34歳)からの相談 Q.独身の頃からチョコレートのう胞と子宮内膜症で4年近く通院中。結婚前の2年間はディナゲスト®で生理を止め、最大8㎝が3㎝程度まで小さくなりました。現在は桂枝茯苓丸の漢 方のみを服用。タイミング療法は6周期目ですが、今回初めて、排卵チェックの際に「大きな 黄体(3.8㎝)ができているね!」と言われました。いつもはHCG注射を打つ時期ですが、黄体ができていて体温も高いので注射はしませんでした。 今回初めて言われたということは、これまで排卵していなかったのでしょうか? それとも今 回、先生がたまたま言葉にしただけでしょうか。黄体は見える時と見えない時がありますか?
黄体のう胞とは
とまはるさんは、タイミング6周期目にして初めて黄体ができていると言われたようですが、これはどういうことなのでしょうか? そもそ も黄体とはどんなものですか?
操先生 黄体とは、排卵後に卵胞が変化して形成されたもので、そこから妊娠を維持するためのホルモンを放出します。
通常、卵胞は2 cm 前後で破卵する のですが、今回、排卵チェック時に見えた 3.8cm の大きな黄体とは、排卵 にともなって出血し、貯留した血液によって膨れた黄体のう胞のことだと思います。
実際、黄体はエコーで確認できる時とできない時がありますが、のう胞化すれば確実にエコーでとらえられます。
黄体のう胞であれば、基本的に自 然消滅していくものですし、排卵もきちんと起こっているので特に心配はありません。
ただ、特殊な場合として、卵胞のう胞や黄体化未破裂卵胞の可能性はあります。
とまはるさんのように基礎体温が 上昇していれば、卵胞のう胞ではなく、黄体化未破裂卵胞の心配はありますが、そのあたりは超音波で卵胞の変化の状態を見ることで、ある程度見極められると思いますし、先生からもそのように言われるはずです。
ですから今回はおそらく、たまた ま黄体のう胞ができていたのを見て、先生が言葉にされただけではないでしょうか。
逆に今まで何も言われなかったということは、のう胞形成せずにきちんと排卵後の状況になっていたということだと思います。
子宮内膜症の治療
子宮内膜症の治療についてはいかがでしょうか?
操先生 桂枝茯苓丸は、もともと月経治療に有効な漢方薬ですが、単独投与でどれくらい内膜症に効果があるのかは疑問です。
内膜症治療を目的にするなら、やはりメインはディナゲスト ® でしょうね。
これは比較的新しい子宮内膜症の治療薬で、それまでのGnRHアナログの点鼻薬や注射薬などと違い、ホルモンを完全に抑えてしまわないので副作用が比較的少ないと言われています。
また投与期間の期限もなく、とまはるさんの8 cm から3 cm のように、かなり高い治療効果が期待できます。
ステップアップも視野に
今後はどのように治療を進めればいいでしょうか?
操先生 子宮内膜症は女性ホルモンによって大きくなるものですから、生理が来るごとにまた大きくなる可能性はあります。
年齢的にも卵巣の機能が落ちてくる時期なので、あまりゆっくりとした治療はしていられません。
まずは、子宮内膜症があるわけで すから、腹腔の癒着などを考えて卵管造影検査やホルモン検査なども含めて、これまでしていない検査のスクリーニングをするべきでしょう。
そして、ほかに治すべきところがないかを確認しながら、治療自体、そろそろステップアップを考えてもいいタイミングかもしれません。
※ディナゲスト®:卵巣機能の抑制や子宮内膜の増殖を抑制して、子宮内膜症を治療する薬。
※卵胞のう胞:排卵時に何らかの理由で卵胞が破裂しないことにより形成されるのう胞。通常、 1〜3カ月で消失する。
※黄体化未破裂卵胞:卵子が卵巣内で十分に成長しているにもかかわらず、卵胞が破裂せず排卵できないまま黄体化する。黄体ホルモンは分泌され、高温期が続く状態。卵巣の癒着、子宮内膜症な どが関係するといわれる。