不妊治療中のお酒、 大丈夫?【医師監修】

俵史子先生の、体質改善ROOM

妊娠・出産のためには健康な体づくりが大切です。

体質改善の指導に力を入れている俵先生に、 今回は、不妊治療中の飲酒について聞きました。

自分のためにも、赤ちゃんのためにも 今日からできる体質改善、 始めましょう!

【医師監修】俵史子先生 浜松医科大学医学部卒業。総合病院勤務医時 代より不妊治療に携わり、2004年愛知県の竹 内病院トヨタ不妊センター所長に就任。2007 年、俵史子IVFクリニックを開業(のちに俵IVFク リニックに名称変更)。生殖医療専門医。今春か ら有能なスタッフを増員して、カウンセリングや培 養部門を強化。さらにパワーアップし、どんなお悩 みにも対応できる体制を整えて患者さんをお待ち します。
ネコさん(33歳)からの相談 Q.私は週に一度、お酒を飲むのを楽しみにしているの ですが、排卵誘発の注射を始めてからは禁酒しようと 思っています。ただ、生理を待っている今はお酒を飲ん でも大丈夫なのでしょうか。不妊治療中の飲酒やアル コールが妊娠に及ぼす影響について教えてください。

過度の飲酒は薬の 効き目を下げることも

アルコールに関して、これまでの文献や報告では「妊娠中と授乳中は摂ってはいけない」ということがわかっています。
アルコールは胎盤や母乳を通じて胎児、乳児の血液や体内に流れ込み、脳や体の発達に悪影響を及ぼします。
ですから、妊娠中、また授乳期においては禁酒をしていただくことが必要かと思います。
では、不妊治療中の飲酒はどうかということですが、これについては「アルコールはダメ」「それほど影響はない」など、さまざまな意見やデータがあります。
アメリカで行った「飲酒と体外受精の治療歴」の調査結果によると(Data4参照)、男女とも日常的にかなりの量のアルコールを摂取するカップルは、それほど摂取しないカップルに比べて出産に至る確率は 20 %程度低く、受精率は半分程度になってしまうというデータが出ています。
アルコールと不妊治療の因果関係について、現状でははっきりした見解やエビデンスは出ていませんが、ご自身の健康のためにも、過度の飲酒は控えたほうがいいのではないかと思います。
ネコさんのご質問にある、薬と飲酒についてですが、これは摂り方や飲む程度によって影響は違ってくると思います。
経口薬とお酒を同時に飲んだり、注射の直前や直後に飲酒をすると、薬が長時間体内に残り、強く効きすぎてしまうことがあります。
これは排卵誘発剤だけではなく、薬全般に言えるので、同時摂取は絶対しないようにしていただきたいです。
また、慢性的に飲酒をしていると、酵素系の活性がうまくコントロールされなくなり、薬が効きにくくなることがあります。
おそらく、飲酒をやめて1~2週間経たないと活性が落ち着いてこないと思うので、排卵誘発の治療に支障を来してしまうことも考えられます。
やはり、過度の飲酒はよくないということになりますね。
ネコさんのように、週に1回、量も1単位程度(ビールで中瓶1本、日本酒で1合、ワインで3分の1本、ウィスキーの水割りなら1杯、焼酎お湯割りで 0.6 合が目 安)、薬と同時摂取をしなければ、それほど問題はないと思います。
排卵誘発は、その方に合わせて薬の量や期間などをきちんとコントロールし、進めていく治療です。
過度な飲酒などの生活習慣で支障があると、治療の意味がなくなってしまいますね。
昔からお酒は飲み方によっては薬になるともいわれています。
害ばかりではなく、体を温めて血行をよくしたり、ストレスを解消する効果もあると思いますから、不妊治療中はご夫婦ともに適量を心がけて、上手に生活に取り入れるようにしましょう。

不妊治療中、妊娠中のアルコールの影響

お酒を知って 適量を心がけよう

Data 1女性の体とアルコール

男性よりも少なめに、その理由は?
 女性は男性に比べて体格が小さいので、肝臓の大きさも小さく できています。そのため、男性よりも少ない飲酒量、より短期間 (男性の半分)でアルコールの害を受け、アルコール依存症や 肝臓障害、すい臓障害など、アルコール性の内臓疾患になりや すくなってしまいます。 また、女性は男性より体脂肪が多く、その分だけ体内の水分量が 少ないということ。アルコールは脂肪に溶けにくいため、お酒を 飲んだ時の血中アルコール濃度が 男性よりも高くなります。さらに、女 性ホルモンにはアルコールの分解 を抑える作用があるともいわれてい ます。「女性にとっての適量は男性 よりも少量である」という認識を持 つようにしましょう。(※1)

Data 2お酒と薬

慢性的な飲酒は薬の効果を下げる場合も
お酒と薬を併用すると、薬がうまく作用しなくなってしまうこと があります。慢性的に飲酒をしている人は飲んでいない時でも 薬が効きにくくなり、アルコールと薬を同時に摂取した場合は薬 の作用が強く現れすぎてしまうことも。 前者は、アルコールも薬も代謝する酵素系がお酒を飲むことで 活性が高まり、アルコールに強くなるのと同時に薬に対する耐 性も上がるため、薬が効きにくくなり ます。後者は、アルコールを優先して 代謝しなければならないため、分解 を妨げ合うことで薬の効果が長引き ます。(※1)

Data 3男性不妊への影響

過度の飲酒は男性にもよくないデータが
アルコールを分解する酵素は肝臓にあり、体内に入ったアルコールのほと んどは肝臓で代謝されていますが、男性の場合は精巣にもアルコールを分 解する酵素が存在します。そのため、過度にお酒を摂取すると、分解の過程 で発生する「アセトアルデヒド」という物質が精巣の中に増加してしまうこ とがあります。このアセトアルデヒドは非常に毒性が強い物質で、精巣内に 蓄積すると、精子をつくる機能を失ったり、男性ホルモンの合成を抑制して しまうことがある、という研究も報告されています。

Data 4飲酒と不妊治療成績

出産率も低下するというデータが
アメリカで飲酒と不妊治療の成績の関係を調べたところ、週に4単位以上 のアルコールを摂取する女性は、4単位未満の女性に比べて、出産に至る 確率が16%程度低く、男女とも週4単位以上を摂取するカップルは、どち らも4単位未満しか飲まないカップルに比べて出産に至る確率が21%程 度低く、受精率は48%程度も低かったというデータが報告されています。 (※2)(▶アルコール1単位=ビールで中瓶1本、日本酒で1合、ワインで3分の1本、 ウィスキーの水割りで1杯、焼酎お湯割りで0.6合が目安)

Data 5妊娠中の飲酒

胎児の発育に影響を及ぼす
妊娠した女性が飲酒すると、胎盤を通じてアルコールは 胎児の血液に流れ込みます。妊娠中に多量に飲酒すると 「胎児性アルコール症候群(FAS)」を起こし、知能障害 を主とする中枢神経系の機能障害や発達障害、大小奇 形頻度の増加など、赤ちゃんに悪い影響を及ぼすことが あります。FASになるかどうかは、飲酒量や母親の年齢、体格など個人差 がありますが、妊娠中の飲酒は赤ちゃんにとっていいことはありません。妊 娠を意識した段階から禁酒を心がけることが必要です。(※1)
※1=参考/公益社団法人「アルコール健康医学会」ホームページ
※2=出典/Effect of Alcohol Consumption on In Vitro Fertlization Rossi Brooke,et al.Obstet Gynecol.2011Jan;117(1):136-142
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