不妊治療のこれからを考える・Part2

不妊治療の現場から

不妊治療と卵子提供 そのあり方と方向性を考える

メディアでも取り上げられ、耳にする機会も多い「卵子提供」。 巷でさまざまな意見が交わされるなか、医療現場ではどうとらえられているのかを、 セントマザー産婦人科医院の田中温先生とセント・ルカ宇津宮隆史先生に 前号で詳しくお聞きしました。

今回の後編では、国内におけるあり方や、 進むべき方向性について、引き続き白熱した議論を交わしていただきました。

メディアでも取り上げられ、耳にする機会も多くなった「卵子提供」。

巷でさまざまな意見が交わされるなか、医療現場ではどうとらえられているのかを、 セントマザー産婦人科医院の田中温先生とセント・ルカ産婦人科の宇津宮隆史先生に 前号で詳しくお聞きしました。

今回の後編では、国内における卵子提供のあり方や、 進むべき方向性について、引き続き白熱した議論を交わしていただきました。

法整備の遅れが 現場の混乱を招く要因に

前号では、卵子提供そのものに対する考え方や、医療現場でのとらえられ方、また生まれてくる子どもたちへのフォローアップの必要性などについて、不妊治療の専門医である田中温先生と宇津宮隆史先生にお聞きしました。

国内では、いまだ現在進行形の状況にある卵子提供ですが、そのあり方について、またこれから進むべき方向について、ご意見をお聞かせください。

田中 本を正せば、夫婦ではない非配偶者間の不妊治療自体が、本来はあり得ないことでした。

それゆえに、この治療を認めていない国もあります。

「本来はあり得ない姿だからしない」と原点に立ち返るのならば、私はそれも一つの方向だと思うのです。

そう決まれば、私も卵子提供は行いません。

ところが、国も厚労省も「卵子提供は認めない」という姿勢を見せながらも、JISART日本生殖補助医療標準化機関)が卵子提供を行っていることに対しては、黙認というよりも逆に認めているような……。

卵子提供は可能か不可能か、それをとても曖昧な状況のなかで決めることは難しいと思います。

宇津宮 倫理が絡む問題は、国が先頭に立つべきですよね。

ですが国は、日本産科婦人科学会(以下、日産婦)に任せようとしています。

しかし、日産婦が卵子提供の倫理問題をクリアにすることは極めて難しいと思うのです。

せめて、倫理以外の、学術集団としての見解を出していただきたい、という要望はありますが。

田中 日産婦が難しいとしたら、せめて日本生殖医学会などの専門学会が受け皿になるべきですね。

とにかく、法律が整備されていない、学会の方針も決まっていないという秩序のない状態が、医療現場や患者さんに混乱を招いているのは明らかです。

避けなければならない 生殖医療のビジネス化

最近、卵子提供ツアーの情報を出したいという、企業からの申し込みもジネコに寄せられるようになっています。

これまで何年も先生方が議論を積み重ねていることに対し、法律など行政の立場も定まっていないなかで、対応に苦慮しています。情報を求めている患者さんがいることもわかっているのですが……。

宇津宮 卵子提供に関して我々は、時間をかけて患者さんやご家族へのカウンセリングを行い、国や日産婦と何とか折り合いをつけながら「これが卵子提供の正しい道だ」というものをつくってきました。

けれど、ツアーというパッケージとなると、そういった配慮が果たしてなされているでしょうか。

卵子提供で生まれてくる子どもの、出自を知る権利さえ考えられていないものであれば、私はあまり感心できません。

田中 ですが、日本では、国内で卵子提供を行うことは不可能で、海外でならOKという矛盾があるのも現状ですよね。

その患者さんが納得して強い意志を持っている場合、選択肢の一つとして情報を提供してあげることも大切なのではないでしょうか。

もちろん、ツアー会社自体がきちんとした考えを持っているのかを見極めることも必要だと思いますが、そういったことがクリアになるのであれば、広告を掲載するのも私は「あり」だと思います。

宇津宮 生まれてきた子どもたちには、精子と卵子、どちらにも同じ価値があります。

自分が生まれてきた経緯や、生物学的な親、兄弟について知りたいと望んだ時に、果たして納得のいく答えを出してあげられるのかが疑問です。

田中 やはり、国や行政としてのガイドラインなり方向性を出してもらわないと、何が良くて、何が悪いのか、はっきりとした答えは出せないですよね。

宇津宮先生の意見は正論です。

しかし、患者さんの立場で言えば、子どもが欲しいという切実な思いがあります。

公表はされていませんが、今までに相当数の患者さんが、卵子提供を求めてアメリカだけでなくタイやインドなどアジア各国へ渡っています。

これは相当な覚悟で挑んでると思います。

その国の不妊治療のレベルというよりも、医療レベルそのものが低い可能性もあるかもしれない。

それでも、子どもが欲しいという思いがあって、日本では無理だから海外へ行くというのは、ある意味では自然ではないでしょうか。

宇津宮 医療の現場では、子宮や卵巣を摘出した、もしくは早発閉経の患者さんのために何とかしてあげられる方法はないか、という考えがベースにあります。

しかし、生殖医療をまるで“子宝ビジネス”のように安易なとらえ方をしている可能性があることも、残念ながら否めません。

田中 確かに、日本以外で不妊治療を行っている国の多くで、生殖医療は完全にビジネスだという流れはありますね。

宇津宮 以前、アメリカのある親子と話す機会がありました。

子どもは体外受精で生まれて、父親は不明。父親の存在を明らかにしたいと望んだ時に「自分以外にも、親を知りたいと思っている人は大勢いるはずだ」と、同じ時期に生まれた子どもや、出産した母親を探すためにインターネットで呼びかけて、集まった人たちと一緒にDNA鑑定をしたそうです。

すると、3000 人前後の人たちの親子や兄弟が見つかった。

日本では考えられないことですが、単純に計算しても、1人の男性が提供した精子から100人以上が生まれている、ということでした。

それと同じようなことが日本で行われることはないでしょうが、ルールが確立されていないということは、各々の考え次第で何でもできるということにつながりかねない。

諸外国では立派なビジネスとして成り立っていることからも、日本では慎重に扱わなければならないと思います。

施設内倫理委員会が現場を、 国レベルの施設が統括を担う

貴重なご意見をありがとうございました。

ジネコとしても、患者さんの求めるものや倫理問題など、今後も正確に情報を集める必要があると改めて感じました。

田中 どんな問題にしろ、卵子提供に関しての結論は、法整備の急務です。

誰がリーダーになるのか。

国なのか、専門学会なのか、日産婦なのか。

それとも、それなりの評価機関を持っている、我々のような専門医なのか。

宇津宮 ある程度高いレベルに達した専門家や国民の意見を集約したなかで、ルールをつくることが重要でしょうね。

田中 JISARTの倫理委員会では卵子提供ガイドラインの見直しがあり、若干、規制緩和の動きになっています。

たとえば、卵子提供者は今まで「 35 歳未満の出産経験者」に限っていましたが、新しいガイドライン(平成 23 年一部改訂)では「 40 歳未満で出産未経験者でも良い」というふうに変わってきています。

そういった条件のなかで実績を積み重ねると同時に、その都度、国へ報告していくことで、現状よりも良い状況に進めると思うのです。

要するに、最終的には各施設が施設内倫 理委員会を設け、そのうえに統括する施設をつくる。

国が直接携わるのは大変だと思いますが、なるべく国レベルの施設、機関に統括してもらうのが望ましいですね。

生まれてくる子どもの 幸せが根底にある

最後に、卵子提供を含めた生殖医療について、先生方の思いをお聞かせください。

田中 不妊治療を始める患者さんの平均年齢が 39 歳と高齢になり、卵子が反応しない、子宮内膜症やがんなどが原因で子宮や卵巣を摘出しているなど、自力での妊娠が難しいケースは年々増え続けています。

そういった患者さんに赤ちゃんを抱かせてあげたいという思いはもちろんありますが、不妊治療の主体はやはり生まれてくる子どもであり、その人権を尊重することを第一に考えることが、今後さらに重要になってくるでしょう。

倫理委員会というのは、そこまで踏み込んだ議論と検証をしたうえで法の整備を進めるべきですから、相当難しいと思います。

子どもは親を選ぶことができません。

本当に生まれてきて幸せだと思える環境を早急につくることは、国であり、生殖医療に携わる我々の役割ですね。

宇津宮 「子どもが欲しいから」ではなく、その子どもが「産んでくれてありがとう」と言ってくれて初めて、不妊治療は成り立つという思いが常にあります。

日本の生殖医療は世界に誇れるものだと自負していますが、法整備に関してはあまり進んでいません。

子どもの出自を知る権利、提供者の情報開示、フォローアップなど、取り組まなければならない課題はたくさんありますが、いずれにしても根底にあるのは、生まれてくる子どもの幸せと成長だということを提唱し続けたいと思います。

 

田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科 医長時代、診療後ならという条件付きで不妊 治療の研究を許される。度重なる研究と実験 は毎日深夜にまで及び、1985 年、ついに日 本初のギフト法による男児が誕生。1990年、 セントマザー産婦人科医院開院。日本受精着 床学会副理事長。2009 年〜 2011年まで JISARTの理事長に就任。

 

宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学 生体防御医学研究所講師、1989年大分 県立病院がんセンター第二婦人科部長を 経て、1992年セント・ルカ産婦人科開院。 国内でいち早く不妊治療に取り組んだパ イオニアの一人。開院以来、妊娠数は 6,200 件を超える。
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