【医師監修】原 利夫 先生 1983 年、慶應義塾大学大学院医学研究科修了にて医学 博士学位を取得。同大産婦人科助手時代、日本初の凍結 受精卵ベビー誕生の一員として活躍。その後、東京歯科大 学市川病院講師、千葉衛生短大非常勤講師を経て、1993 年はらメディカルクリニックを開院。わかりやすい説明に定 評があり、テレビや雑誌でコメントを求められることも多い 原先生。知名度が高く人気のクリニックだが、施設を拡張 していくより「一人ひとりの患者さんに自分の目がしっかり届 く現在の形で治療に専念していきたい」とのこと。
はなさん(42歳)Q.あるウェブサイトで「Day3のE2 値が100前後の高数値だと遺残卵胞の可 能性が高く、妊娠には至らない卵子であることが多い」という記事を読みま した。私は先月、海外で体外受精の採卵をし、次の周期で凍結胚を移植す ることになっていますが、採卵周期のE2 値が108でした。医師からは何 も指摘されず、無事採卵を終え、グレードBの胚盤胞になりました。上記 の話が本当なら遺残卵胞である可能性が高いのですが、遺残卵胞でも受精 し、胚盤胞までいってしまうものですか? 妊娠まで至らない受精卵である 可能性が高いのであれば、移植するべきかどうか悩んでいます。
遺残卵胞とキャンセル
E2値からみると、ウェブサイトの情報にあったように、やはり遺残卵胞がある可能性が高いのでしょうか。
原先生 Day3の E2 値が 50 以上だと、前の周期に排卵しないで次の周期まで残ってしまった遺残卵胞がある可能性が高くなります。
このような場合、排卵誘発剤を使用しても、遺残卵胞を主席卵胞と勘違いしてしまい、その他の卵子の発育を阻害してしまうので採卵がキャンセルとなることが多く、もし採卵できたとしてもほとんどが空胞や変性卵ということになります。
遺残卵胞以外の卵胞が大きくなることもありますが、きちんと育つ前にLHサージが起こってしまうので、未成熟卵として採卵されてしまう場合もあります。
このようなことから、遺残卵胞があると採卵キャンセル率、胚移植キャンセル率が高くなり、その結果、妊娠率も下がってしまうということになります。
遺残卵胞と胚盤胞
はなさんの場合、採卵はキャンセルにならず、採った卵子は胚盤胞まで育ったということです。これはどういうことですか?
原先生 Day3の E2 値が200〜300くらいの非常に高い数値だったら採卵は見送られたと思いますが、108だとぎりぎりの値なのです。
そのため、これまでのご経験から、担当の先生は採卵を行ってもいいと判断されたのではないでしょうか。
胚盤胞になったというのは、これは遺残卵胞ではなく新規で育った卵子だったからだと思います。
遺残卵胞もあったけれど、採れた卵子は新しくできたものだったのでしょう。
この場合はそのまま移植されても問題はないと思います。
なぜ、遺残卵胞という状態になるのでしょうか。また、なりやすい人にはどんな傾向がありますか?
原先生 前の周期の高温期にFSHの値が高いと、採卵周期の E2 の値も高くなってしまいます。
通常は生理がきた後、一気にFSHの刺激を受けるのですが、前周期の黄体期からFSHがたくさん出て刺激を受け続けているので、卵胞が妙な発育を始めてしまうわけです。
これらの卵胞が、新しくでき始めた卵胞の発育を阻害してしまうのです。
このようなFSHの乱れは年齢による影響が大きいのですが、若い方でもクロミフェンやHMG製剤などの排卵誘発剤を長期間使っているとホルモンバランスが乱れ、遺残卵胞の状態を起こすこともあります。
そのままではFSHが高い状態が続いてしまうので、通常はカウフマン療法などを行ってFSH値を下げるようにします。
※E2:卵胞ホルモンの1つ、エストラジオール。
※FSH:脳下垂体から産生・分泌される卵胞刺激ホルモン。卵巣に作用して卵胞の形成・発育を促す。