無精子症であったことを自著﹃タネナシ。﹄で告白した、 ダイアモンド ユカイさん。伝説のロックスター、そし て一男性として飾らない本音が語られたこの本は、ファ ンのみならず、不妊症に悩む人たちからも大きな反響を 呼びました。 「精子がいない」と診断された時の衝撃や葛藤、戸惑いな がらそれを乗り越えていったご夫婦の愛、愛娘、そして 双子の男の子を授けてくれた運命のドクター・田中先生 との出会い、実際の治療法まで ―― 。 田中先生とユカイさんにじっくり語っていただきました。
「精子はゼロ」と言われて 頭の中が真っ白に
2009年、 10 歳下の一般女性と再婚。お互いバツイチで、ユカイさんが 40 代半ば、奥さまが 30 代半ばという年齢も考え、早く子どもを望んでいましたが、なかなか叶わず、奥さまは都内の不妊外来を受診。ところが、そこで告げられたのは意外な真実でした。
ユカイ 検査したところ、妻はまったく健康体。
それで念のため、俺の精液検査もやることになりました。
そこで言われた結果は「残念ながら精子はゼロです」。
「えっ!!!」と思わず声を上げてしまいました。
“ゼロ”って何なんだろう……?
その時は落ち込むっていうより、先生が言っている言葉の意味がわからなくて、頭の中が真っ白に。
自分自身も「精子はゼロ」と言われて 頭の中が真っ白に…ゼロになっちゃったんですね。
その真っ白なところからだんだん過去の自分にオーバーラップしていって、じゃあ、今までの俺は何だったんだろう、って走馬燈のように過去が蘇ってきて、愕然としました。
後日、自宅で採精して行った2度目の精液検査の結果も「精子ゼロ」。その時、奥さまの反応はどうだったのでしょうか。
ユカイ それはびっくりしてましたが、俺のことを気遣って妻は「子どもがいなくても、ユカイさんだけで世話が焼けますから。
これからはユカイさんのことを子どもだと思ってやっていきますよ」とやさしく声をかけてくれました。
その気持ちは痛いほど感じたけど、正直「放っておいてくれ」と思いました。
もう自分がショックを受け止めることで精一杯で……。
それに「本当にそう思っているのかな」なんて、疑いも少しあった。
田中 女性には、ものすごく母性本能がある。
「大丈夫よ」と言っても本能は嘘をつけない。
それはオスにはないから、男性には女性の本当の気持ちがわかりませんよね。
ユカイ そうなんですよ。
結局は、俺のために子どもを諦めるんじゃないかって、妻に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
俺じゃなきゃできるわけだし、タイムリミットもあるから別れることも考えましたね。
それでもお二人は子どもを授かる可能性を捨てず、精巣生検を受けて睾丸の組織から精子を見つけ、体外受精を受けることに……。
睾丸をバッサリ切るなんて まるで男の帝王切開だ!
ユカイ ドクターから、俺は、無精子症のなかでも精子の通り道である精管に問題がある“閉塞性無精子症”の可能性があると言われて、精巣生検を提案されました。
その前から妻と一緒にネットで男性不妊や体外受精についていろいろ調べていて、睾丸から精子を採る方法も見ました。
男って情けないんだけど、知識よりまず痛いかどうかが気になるんですよね。
だって、男の大事な部分を切るんですよ!
「切った後にサッカーボールくらいに腫れることもある」っていう映像付きの記事を見て、ものすごく怖くなった。
「これは男の帝王切開だな」って……。
田中 そんなことはめったにないですよ。
それは縫合に失敗してしまった例ですね。
ユカイ 死刑台に上がる気持ちで臨みましたが、やってみたらそんなに大変じゃなかった。
それより、妻のほうがつらかったはず。
俺は一瞬だけど、妻は採卵するまで薬を飲んだり、注射を打ったり……という治療が続く。
不妊治療は、女性側の負担のほうがずっと大きいということを知りましたね。
無事精子が採れて、その後、体外受精に2回挑戦するも2回とも着床せず……。
ユカイ 俺も妻もショックでしたが、こうなったらできるところまでやって、諦めるのはそれからでもいいんじゃないかなと思いました。
「どうせ最後のチャレンジなら、日本でも最高の病院で治療を受けたい」と思ってネットで調べたら、セントマザー産婦人科医院にたどりつきました。
北九州と場所は遠いけれど、第一人者の先生がいる。
妻と二人で意を決して最後の決戦場に向かいました。
田中先生は、ユカイさんを診察されてどのように思われましたか。
田中 触診とFSHというホルモンを調べて、すぐに閉塞性の無精子症だとわかりました。
ユカイさんは睾丸をまっぷたつに切られると思ってビクビクしていたかもしれませんが、閉塞性の場合は睾丸を切らなくても精子は十分採れると伝えました。
ユカイ 先生は「大丈夫! 俺に任せておけ!」って。
何だろう、すごい自信だな、って思いました(笑)。
ものすごく男気がある。
よし、お願いしよう、と決めました。
諸々の検査をした後、2日後に精子を取り出す施術を受けることに。具体的にどのような内容だったのでしょうか。
田中 睾丸は普通はピンポン球くらいの大きさで、その上にウニのような形状をした副睾丸というものがあります。
睾丸でできた精子が全部ここに集まって溜まる。
いわば精子の貯蔵所なんですね。
この副睾丸に針を刺すと簡単に精子が採れるんです。
それも濃度の濃い良好な精子が。
睾丸自体はいじりませんから患者さんの負担も少なく、 30 分くらいで終了します。
ユカイさんのような閉塞性の場合は、睾丸を切らなくてもいいということを多くの方に知ってほしいですね。
不妊に関する知識を持って、 夫婦で悔いの残らない治療を
元気な精子を採取後、新鮮胚で移植し、待望の妊娠! 昨年、第一子の「新菜」ちゃんを授かり、この 11 月には無事、双子ちゃんも誕生しましたね。
ユカイ こういった経験を伝えようか、伝えまいか迷っていたけど、東日本大震災が起きて、今、自分ができることをやったほうがいいという気持ちが強くなりました。
自分の経験を通して思ったことは、世の中で不妊に悩んでいる人は多いし、それよりもまず、俺みたいに不妊について知らない人が多い。
無精子症は100人に1人。
結構いるんです。
そういうことを知らずに年をとってしまい、何も対処できずに諦めてしまった人たちも多いはず。
不妊症の知識をきちんと持って、夫婦が悔いのないようにできることをしてほしい。
俺の本が少しでもそのきっかけになってくれたらいいなと思います。