【医師監修】福田 勝 先生 順天堂大学医学部・同大学院修了。米国カリフォルニア大学産婦 人科学教室留学後、順天堂大学医学部産婦人科学教室講師を経 て、1993 年福田ウイメンズクリニック開院。「患者さんの意向に 応えるのがプライベートクリニック」という考えは開院当時から変 わらない。「もし医師とのコミュニケーションのなかで疑問を抱いた ら転院も考えてみるべき」という福田先生。治療はもちろん、施 設を決めるのも患者の選択肢の一つと考える。
ryoさん(41歳)からの投稿 Q.先日、凍結5日目胚盤胞の移植をしました。黄体ホルモンの補充のために、先生 から「デュファストン®1日2 錠×3回を7日間と注射で対応します」と言われまし たが、前の病院でデュファストン®で少しふらつきが出たため、ルトラール®に変え てくれるよう頼んだところ、「うちはデュファストン®しかないので、服薬はなしで注 射のみ」ということに。移植後と4日後にプロゲステロンデポー筋注125mg®と いう注射をしましたが、結局、P4 は7日目で11.1と伸び悩みました。先生には「そ れは受精卵の質のせい」と言われてショック……。やはり黄体ホルモンの断続的な 補充をしないと着床に影響が出てしまうのではないでしょうか。
黄体ホルモンを注射で補充
ryoさんは「ふらつきは気のせいでした。やはりデュファストンⓇを飲みます」と先生に再度お願いしたけれど、「副作用があるものは出せない」と言われ、飲めなかったことを後悔しているようですが……。
福田先生 デュファストンⓇは黄体ホルモンを補充する薬ですが、1日6錠服用したとしても、注射だけでの補充とそれほど大きな差はないと思います。
飲めないのだったら、注射で補充するという先生の方針は決して間違っていないと思いますよ。
注射の量に関してはいかがでしょうか。
福田先生 移植後と4日後の2回では少なすぎるのでは、とryoさんは心配されているようですが、デポ剤は作用する期間が長いので、回数や量に問題があるということは特にないと思います。
7日目の血液検査でP4(黄体ホルモン)が 11 ・1とのこと。
自然周期でこの値は決して悪すぎるものではなく、着床する可能性はあると思います。
着床は黄体ホルモンで決まる?
ryoさんが心配されているように、着床するかどうかは黄体ホルモンの値で大きく左右されるのですか。
福田先生 もちろんホルモンの環境も重要ですが、それだけで評価するわけではありません。
ホルモンの数値がよくても、受け皿である子宮内膜がそれに反応しなければ着床は成立しません。
ホルモンの測定とともにエコーできちんと内膜の厚さも計測していくことが大切です。
それから、ryoさんの担当の先生がおっしゃるように、妊娠するためには受精卵の質の問題もありますが、この段階で患者さんに言い切るのは少しおかしい気がしますね。
凍結して移植したということは、それなりに評価をクリアしてきた受精卵のはずです。
移植後に「受精卵の質のせい。子宮外妊娠の危険を考えたら、早く生理が来たほうがいい」と言われたそうですが、それでは患者さんは混乱し、医療不信に陥ってしまう可能性もあるでしょう。
子宮環境を整えて移植
ryoさんはまだ、妊娠できる可能性はありますか?
福田先生 抗ミュラー管ホルモンが15 ・9ということなので、年齢相応の値だと思いますが、これはあくまでも目安と考える程度でいいのではないでしょうか。
41 歳で自然排卵があり、胚盤胞まで育ったということなので、まだまだ妊娠への期待は持てると思います。
ただ、子宮筋腫があるとのこと。
今回もし結果が出ないようでしたら、次は人工周期で子宮環境をよりよい状態に整えて戻すのも選択肢の一つだと思います。
※デュファストン®:合成黄体ホルモン製剤で、黄体機能不全などの治療に用いられる。子宮内膜に対し、プロゲステロンとほぼ同様の分泌腺発育を促進し、受精卵の着床に都合のよい環境を準備する。
※ル トラール®:卵巣機能不全症、黄体機能不全による不妊症などの治療に用いられる。
※プロゲステロンデポー筋注125mg®:黄体機能不全などによる不妊症に使われる、黄体ホルモンの作用を持続的にする薬。