卵管性不妊症の大きな要因となる★クラミジア感染症。 特に、長期間放置後の再検査や治療法について いくたウィメンズクリニックの生田先生にお聞きしました。
【医師監修】生田 克夫 先生 名古屋市立大学医学部卒業。名古屋市立大学産科婦 人科学教室助教授、名古屋市立大学看護学部教授な どの経歴を重ねたが、不妊に悩む名古屋の方たちの役 に立ちたいという思いで、教育者の立場を辞して独立。 地元・名古屋の中心部、栄に開院し、1986 年から体 外受精の現場を歩いてきた経験と穏やかな人柄で、数 多くの患者さんを妊娠に導く。気分転換もままならない ほど忙しい先生が唯一リラックスできるのは、ご自宅 で2匹の愛犬と戯れる時間。寒さも増すこの時期には、 一緒のベッドで眠ることもあるのだとか。
目次
ドクターアドバイス
クラミジア抗体の再検査は必要ありません。 まずは、やはり子宮卵管造影検査を優先しましょう
りくさん(主婦・30歳)からの投稿 Q.10年ほど前にクラミジアに感染し、薬を1回ほど飲み忘れた気がするうえ、 再診にも行かず、おそらく完治しないまま放置してしまいました。 最近、クラミジアは卵管などの癒着を引き起こすことを知って恐ろしくなり、不妊治 療専門病院で血液検査したところ、過去にかかったことのある抗体、最近かかっ ている抗体、両方陽性と言われ、夫婦でクラリスロマイシンを服用。再検査はせず、 生理が来たら子宮卵管造影検査の予約を入れるようにとのこと。完治していない 場合、造影剤で菌が押し込まれるのでは? 再検査の必要は?
クラミジアについて
りくさんは、血液検査で過去にかかったことのある抗体、最近かかっている抗体、両方陽性と言われたとのことですが。
生田先生 クラミジア抗体の血液検査では、「IgG」(感染の既往)と「 IgA」(感染の持続性)の2つの抗体価を測ります。
クラミジアに感染すると、まずは IgGが最初に上がってきて、その後、2カ月くらいしてから IgAが陽性となって徐々に消えていき、最後に IgG抗体のみが残るというのが典型的なパターンなのですが、そのパターンに当てはまらない人が多いのも事実です。
りくさんのように両方陽性という例では、過去に感染歴があり、現在も感染が続いている状態になります。
これらの抗体が長い期間、陽性になるかどうかは、感染した時のクラミジアの量と、その菌の強さ、それから感染した時のりくさんの体調や免疫反応がどの程度だったかによります。
すぐに治療をすれば IgG、IgAの抗体はほとんど検出されなくなりますが、長期間放置すると、その間に免疫反応が持続するので、これらの陽性反応はほぼ一生近く残ってしまいます。
ですから、りくさんはやはり、クラミジアにかかってからの放置期間が長かったのでしょう。
過去に薬を服用したそうですが、この時に完治していなかった可能性があります。
そして、クラミジア菌と長期間、接触していたことが考えられます。
クラミジア投薬治療
現在、投薬治療をしていますが、その後の再検査は不要ですか?
生田先生 クラミジア抗体検査は、過去に感染したことがあるかどうかの指標であって、現在、卵管にクラミジア菌が存在するかどうかの目安にはなりません。
ですから、そこで薬を飲む必要があるかは、医師によって意見が分かれます。
実際にいつ感染してどれくらい経っているかはわからないので、念のための投薬ということではないでしょうか。
再検査に関しては、抗体が両方陽性で薬を服用したとしても、基本的にその後の再検査はしません。
たとえば、子宮の入り口をこすって検査して、クラミジア菌の存在自体を調べるクラミジア抗原検査が陽性で投薬治療したのなら、4週間後くらいに再検査すればクラミジア菌がいなくなっているかどうかは確認できますが、抗体価に関してはもともと2度、3度と測るものではありません。
再検査をしても同じ抗体価が出てくるだけだと思いますから、再検査の必要はないでしょう。
子宮卵管造影による影響
完治していないと、子宮卵管造影検査によって菌が押し込まれるのでは、と不安も感じているようです。
生田先生 その心配はおそらくありません。
クラミジア菌は、感染するとすぐに子宮などの表面の細胞の上をどんどんはっていき、1週間程度で卵管あたりまで達してしまいます。
ですから、いまさら菌を押し込むことはありません。
子宮卵管造影検査については、クラミジアの抗体価 IgGが陽性だと10 %以上に卵管内の異常が起こるといわれているので、検査をする意味はありますね。
ただ、さらに言えば、卵管の中を調べると同時に、腹腔鏡検査までやらないと正確には判断できません。
卵管の中は詰まっていないけれども、お腹の中で、卵管の回りの癒着が起こっていればそれが不妊原因になります。
ただ、そこまでいく人はあまりいないので、一応、卵管の通りもよく、子宮入り口でクラミジアがいなければ治っている、という判断が一般的です。
薬の種類
過去に薬を1回飲み忘れたそうですが完治しない要因になりますか?
生田先生 以前は、飲み薬は2週間、現在は1週間でほぼ同じ効果があるといわれています。
さらに現在は、1日飲むだけで大丈夫なジスロマックⓇという薬もあります。
しかし、まだその薬が出ていない頃に、薬を飲み忘れたりして服用が不十分になってしまったという場合はひょっとして……という可能性もあります。
またご本人が治っても、パートナーの方も同時期に同じように治療しないと、感染はくり返されてしまいます。
今後の治療方針
りくさんは、今後どのように治療を進めていけばいいでしょうか?
生田先生 クラミジア抗体の両方が陽性なので、まずは子宮卵管造影検査をして、卵管が通っていれば不妊治療を進めていいと思います。
しかし、ある程度治療を進めても妊娠に至らない場合は、腹腔鏡検査でお腹の中の異常がないかどうかを確認したほうがいいでしょう。
卵管の癒着は腹腔鏡検査の際に手術的に剥がすことは可能ですが、卵管の中の細かい細胞までが壊されていると、なかなか妊娠に結びつかないことも多いです。
その場合は、最終的には体外受精を検討することになると思います。
おしえて!
★クラミジア感染症って?
「クラミジア・トラコマチス」という細菌による性感染症の1で感染者が多い。
男性は排尿時の痛みや痒み、膿などの症状が出ることもある。
女性の場合はおりものが増える、性交時に出血がある程度で、ほぼ無症状な場合が多い。
悪化すると女性は子宮頸管炎や卵管炎などを発病し、不妊症の原因となる場合がある。
妊婦では早産・流産を招いたり、出生時の産道感染により新生児が結膜炎や肺炎を起こす場合もある。
★そのほかの感染症と不妊
クラミジア感染症のほかにも不妊原因となる性感染症はいくつかある。
なかでもクラミジア同様、女性の自覚症状が少なく、感染率も高いのが「淋菌感染症」。
潜伏期間は2~9日ほどで、悪化すると卵管狭窄などを起こし不妊原因となり、新生児への産道感染の恐れもある。
また感染すると潰瘍ができたり、目や心臓、神経にまで悪影響が出る「梅毒」、「性器ヘルペス」などは、胎児奇形率や新生児の死亡率も高い病気。
いずれも早期発見・早期治療が大切とされる。