[ 第1回 ] 家族の選択

幸せのカタチ [ 第1回 ] 家族の選択

一見、どの家族も似てはいるけれど、そこに至るまでには、一つひとつの物語がある。

好きな人と結婚し、子どもができて、夫婦は親になる。

多分それは、どこにでもある幸せのカタチ。

一見、どの家族も似てはいるけれど、そこに至るまでには、 一つひとつの物語がある。

ここに紹介するのは、ある家族の軌跡。

母親の名はこはる、父親はモアイ、そして子どもはヨッシーという。

プロローグ

歩き始めてまだ間もないその子 どもは、片方の足をゆっくりと地 面におろした。首をかしげ、自分 の足と地面を交互に見つめる。地 面はちゃんと固いだろうか?   安 心できる場所だろうか?   やが て、思い切ったように、もう片方 の足も前に出す。喜びで顔がくし ゃくしゃになる。

うれしくてたまらなくなった子 どもは、とことことことこ、どこ までも歩いていく。前のめりにな って、どんどん歩いていく。 「まて、まてー!」

子どもとおそろいの柄のブラウ スを着た母親が追う。少し離れた ところから、父親が二人にカメラ を向けている。父親のシャツもま た、おそろいのギンガムチェック だ。

出会い

「モアイ、いいか。こういうのは 最初が肝心だからな」電車に乗り込むなり、T監督は いった。T監督は、モアイが仕事 以上にのめりこんでいるオートバ イレースの監督だ。

オートバイには危険が伴う。ほ んの少しの判断ミスが死につなが るスポーツだから、監督の意見は 絶対なのだ。モアイは、T監督に は自分の命を預けていると思って いる。

監督は、レース前のマシンを点 検するようにモアイの全身をチェ ックする。これから、彼を、晴れ の見合いの場所へ連れて行くの だ。不備は許されない。

そのころ、見合いの相手、こは るは、下半身を固定され、身動き のできない体を病院のベッドの上 に横たえて、落ち着かない時間を 過ごしていた。 「こはるちゃん、そろそろなんじ ゃない?   こっちまでドキドキし ちゃうよ」

病室のみんなが、かわるがわる 声をかけてくる。その日、モアイが来ることは、病院中の人間が知 っているのだ。

先天性股関節臼蓋形成不全。生 まれつき股関節の発達が悪く、年 齢とともにひどくなる病で、こは るはこの手術のために入院をして いた。 30 歳を迎え、そろそろ結婚 をと考えていた時期でもあった。

運命の糸は、意外なところでつ ながるらしい。こはるの「誰かい い人いないかなぁ」というつぶや きを聞いて、不思議な偶然を感じ る人物がいた。同室の入院患者、 T監督夫人だった。モアイが、夫 妻に同じことをいっていたのだ。 善は急げと監督夫妻は二人の仲を 取り持つことにし、この日の対面 となったわけだ。

病院中がかたずをのんで見守る 中、監督に連れられてモアイはや ってきた。 「どうも、はじめまして。こはる です」

病院のお仕着せではあるけれ ど、この日のためにと看護師さん たちが特別に用意してくれた、真 新しいパジャマに身を包み、ベッ ドに横たわるこはるは、無邪気な 子どものようにかわいらしい。モ アイは、いっぺんで好きになった。

一方、こはるは、これはずっと 昔から決まっていることなのだ と、心のどこかで感じていた。

骨盤を切るという大手術が終わ り、こはるのリハビリが始まった。 モアイは週末ごとにやってくる。今日は玄関まで歩いてみよう。 次はコンビニまで。今度は駅まで。 駅の向こうのデパートまで。二人 で歩くことが楽しかった。昨日よ り今日、もっと遠くまで行けるこ とがうれしかった。

歩く距離に比例して、二人の気 持ちが寄り添っていく。二人なら、 何があっても一緒に乗り越えてい ける。そんな思いを確かめ合い、 こはるとモアイは入籍した。20 04年、 11 月。出会いから半年が 過ぎていた。

1日も早く子どもが欲しい

朝、モアイを送り出すと、こは るは、パソコンを立ち上げ、お気 に入りのサイトをクリックする。 妊娠の情報を収集し、心の準備を しているのだ。 「モアイそっくりの赤ちゃんを産 みたい」そんな書き込みをしては、 母になることを想像し、幸せな気 持ちに満たされていた。

基礎体温もつけ始めた。近所の 産婦人科でタイミングの指導も受 けた。しかし、春が過ぎ、夏にな っても妊娠の兆しがない。造影検 査も受けたが、医師は問題ないと いう。

それでも何か理由があるはず。 そう考えたこはるが次に向かった 先は、不妊専門の小さなクリニッ クだった。

「子宮筋腫があるかもしれませ ん。大学病院を紹介しますので、そちらに行ってください」

医師は造影写真を見るなりそう いった。

大学病院というところは、やた らと検査が多い。生理前の検査、 生理後の検査。あの検査にこの検 査だ。そのくせ先生が毎回変わり、 肝心の子宮筋腫をどうするか、具 体的な結論はさっぱり出ない。時 間ばかりが過ぎ、季節は冬になっ ていた。

その日、こはるは朝からひどい 出血で苦しんでいた。いつにも増 して生理が重い。病院に着いたと きには倒れる寸前で、唇は血の気 を失い震えがとまらない。その様 子を見た医師は、緊急手術の判断 を下す。2005年 12 月 23 日、こ はるは再び入院患者となった。

翌年1月半ば、手術は無事に終 了。医師が見せてくれたのはマリ モのような筋腫が3つ。これが不 妊の原因だったのだ。 「ああ、やっと赤ちゃんができ る!」

こはるは、うれしくてたまらな かった。今度こそ、二人の赤ちゃ んを産むことができるのだから。

その数日後、帰宅したモアイは 1本の電話を受ける。 「明朝、病院へ来てもらえません か?   ちょっとお話したいことが あるので」

こはるの担当医はそれだけを告 げると、慌ただしく電話を切った。 (つづく)

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。