【Q&A】自然周期での胚盤胞移植の利点~重富先生【医師監修】

MAさん (32歳)

現在、顕微授精で出来た胚盤胞を移植しましたが2回陰性でした。
1回目は妊娠しましたが13週で10週相当の流産でした。
その後、着床しません。

不育症検査を受け、引っかかったのは「NK細胞」ですが、記事にエビデンスがないと書かれていましたし、先生からも「あまり関係ない」と言われて対策はありません。

1回目ホルモン補充で妊娠できたためホルモン補充にしましたが、身体的にきついので次回は自然周期を検討しています。
自然周期にすることで着床率や妊娠率に影響はあるでしょうか?
胚盤胞もなくなったので、残り少ない保険診療を有効に使うため転院も考えてます。

重富先生に聞いてみました。

【医師監修】ASKAレディースクリニック 副院長 重富洋志 先生
2003年、奈良県立医科大学卒業。星ヶ丘厚生年金病院、奈良県立医科大学で産婦人科医の経験を重ね、2017年よりASKAレディースクリニックの副院長として従事。患者様が納得して治療を進めてもらえるような診療がモットー。患者様の生活スタイルに合わせた診療を行い、土日祝だけでなく、夜は20時まで受付時間を設けている。生殖医療専門医、日本産科婦人科学会専門医。趣味はマラソン。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
これまでの治療、本当にお疲れさまでした。不安や戸惑いの中で、一つひとつの選択を重ねてこられたことと思います。
2回の移植のうち1回は妊娠まで進んでいることは、医学的には決して悪い経過ではありません。もちろん“あと一歩”が叶わなかったことは残念ですが、その“一歩手前”まで来ているということでもあります。
焦るお気持ちは自然なことですが、それと同時に「うまくいく可能性は十分にある」という視点も、ぜひ持っていただきたいと思います。
少しでも今後の治療のヒントになればと願いながら、お答えいたします。

●顕微授精での胚盤胞移植後の流産の原因を探る方法はありますか?

はい、いくつかの検査で原因を探ることは可能です。
まず、流産の多くは受精卵(胚)側の要因によることが多く、なかでも染色体異常が主な原因とされています。これは、移植時のホルモン状態や子宮の環境が整っていても、胚の染色体に問題がある場合は、着床してもその後うまく育たないことがあるためです。

【原因を探るために検討できる主な検査】
•流産絨毛の染色体検査(POC検査):流産時に胎児組織が採取できた場合、染色体異常があったかどうかを調べることができます。
•夫婦の染色体検査(Gバンド法):ご夫婦どちらかに染色体の構造異常(転座など)がないかを確認します。
•着床障害や不育症に関する検査:子宮形態の異常(MRIや子宮鏡検査)、血液凝固異常、自己免疫(抗リン脂質抗体など)を調べ、母体側の要因を評価します。

すでに不育症に関する検査は受けられたとのことでした。
また、夫婦の染色体検査については、仮に異常が見つかったとしても、それが今後の治療方針に大きな変化をもたらすとは限りません。そのため、「次の治療につながる検査」という観点では、現時点で新たに追加できる決定的な検査は限られるのが実情です。

●自然周期での胚盤胞移植に関する利点とリスクを教えてください。

自然周期とは、ご自身の排卵に合わせて胚を移植する方法です。排卵のタイミングを確認し、それに合わせて胚盤胞を子宮に戻します。ホルモン剤を使って排卵や内膜の状態を調整する「ホルモン補充周期」とは異なり、体の自然なリズムを活かすという特徴があります。

【利点】
•ホルモン補充による体調不良が少ない
 人工的なホルモン剤の使用が最小限で済むため、身体的・精神的な負担が軽くなることがあります。
•自然な内膜環境での着床が期待できる
 ご自身の黄体ホルモンが働くことで、子宮内膜が自然な形で整うと言われています。

【リスク・注意点】
•排卵の管理が難しい場合がある
 排卵のタイミングに左右されるため、予定通りに移植できないこともあります。
•黄体機能が不十分なこともある
 自然周期では体内のホルモン分泌に依存するため、黄体ホルモンの分泌が足りないと着床や妊娠の継続が難しくなる可能性があります。そのため、自然周期であっても黄体ホルモンの補充を併用することがあります
•通院回数が増えることがある
 排卵のタイミングを正確に捉えるために、数回の通院が必要になる場合があります。

●細胞の影響と対応策について先生の考えをお聞かせください。

「NK細胞(ナチュラルキラー細胞)」は免疫細胞のひとつで、「着床に悪影響を与えるのではないか」という説があります。しかし、現時点では妊娠との確かな関連を示すエビデンスは十分に確立していません。

【現在の医学的な位置づけ】
•NK細胞が高い方でも妊娠される方は多く、数値だけで着床不全や流産の原因とは言い切れません。
•免疫抑制剤・ステロイド・IVIG(免疫グロブリン)療法などが試みられることもありますが、いずれも保険適応外で、効果を裏づける明確なデータは十分ではありません。そのため、標準治療としては推奨されていません。

先生から「関係ないかもしれない」と言われた背景には、
“科学的根拠がまだ弱い治療に頼るより、まずは今できる標準的で確実性のある治療を続けることが大切”
という医学的判断があるのだと思います。


●保険診療を有効に使うための最適な治療計画を教えてください。

2022年4月から不妊治療に保険が適用され、採卵や移植には回数制限(40歳未満は6回、40歳以上43歳未満は3回) が設けられています。そのため、限られた回数をできるだけ有効に使うためには、以下の点を意識して治療を進めることが大切です。

【保険診療を有効に使うためのポイント】
1. 採卵周期の質を大切にする
良好な胚盤胞を複数得られれば、移植のチャンスが増え、保険診療内でも効率よく治療を進めることができます。
採卵の前には、ホルモン状態の確認や刺激法の選択が重要になります。
2. 必要に応じて自費の検査を併用する
ERA・EMMA・ALICEなど、着床時期や子宮内細菌環境を評価する検査は保険適用外ですが、
反復着床不成功のケースでは選択肢として検討されることがあります。
ただし、すべての方に必須ではなく、医師と相談しながら行うことが大切です。

「最適な治療計画」は患者様それぞれで異なり、誰にでも当てはまる“正解”があるわけではありません。
ただし、これまで妊娠まで至った実績があることから、現在行っている治療方針は大きく間違っていないと考えられます。

●転院を検討する際の注意点やポイントについてアドバイスをお願いします。

転院は気分を一新でき、治療に前向きに取り組めるようになるというメリットがあります。ただし、現在の保険診療で行われる不妊治療は、治療方法や使用薬剤など細かく決められているため、医院により大きく変わることはありません。
以下のような点に注意してください。

転院の注意点:
•紹介状・治療歴のまとめを準備する
今までの治療内容、使用した薬剤、胚のグレードなどが重要な情報になります。
•保険診療のカウントの引き継ぎ
保険の移植回数は、転院後も同じ回数が継続します。
•先進医療を行える施設
例:ERA検査などは先進医療であり指定施設でのみ施行することができます。
•予約の取りやすさ・通院距離
排卵日や移植日に合わせた通院が必要なため、無理のない距離や通いやすさも大切です。

最後に、
ご不安やご負担が続いておられることと思います。治療には「身体的な負担」「精神的な不安」「経済的な制約」が伴いますが、何より大切なのは、患者様ご自身が納得できる形で治療を選び進めていくことです。
疑問に思われた点は、どうぞ遠慮なく主治医にお尋ねください。ご自身が安心できる治療を選択していけるよう、今回の回答が少しでもお役に立てば幸いです。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。