わいわいさん(31歳)
31歳、体外受精治療を行っています。
前院にて移植4回(いずれも陰性)し、転院後、採卵1回で胚盤胞7個を凍結しました。
– グレード2:5AB(5日目)、4AB(5日目)×2、5BB(6日目)
– グレード3:5C+B(5日目)×3
11月中旬頃に生理予定で、転院後初めての移植周期に入っていきます。
Th1/Th2比:47.8
院長は「免疫異常があるため自費移植でタクロリムス治療を行う。そのため良好胚は温存し、自費に回す方針」。副院長は「まずは保険適用内で良好胚(グレード2)から移植していく方針」です。
夫婦で判断を求められましたが、どちらがより合理的か判断がつかず、専門的なご意見を伺いたいです。
【相談したいこと】
① 保険適用があと2回残っている中、免疫異常を考慮した上でどのグレードの胚から移植するのが望ましいと考えますか?
②受診した内科で勧められたサプリ「ニチモウバイオティックス ドクターイムバランス」は、Th1/Th2比が高めの場合に免疫バランスを整える可能性はありますか?
移植周期に服用して問題ないかも伺いたいです。
私たちの今後の計画としては、自費移植は視野に入れていますが、胚がなくなった時点で治療終了する予定です。
自費採卵からは考えていません。
小川誠司先生に教えていただきました。
藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
●検査・治療データをみて気になるところがあれば教えてください。
Th1/2比は異常値の中でも、かなり高い値になります。
またTrio検査を2回されていますが、2回目は1回目の結果に即して再検査をされたのでしょうか。最近、ERA検査の信憑性を疑問視する声もあります。結果に即してホルモン調整周期での移植でも良いですが、わいわいさんは人工授精でも妊娠されておられますので、自然周期で移植されることも選択肢だと思います。
●保険適用残り2回で免疫異常を考慮した場合、どのグレード胚から移植するのが望ましいですか?
不妊治療が保険適用になって、多くの治療オプションが先進医療になり、保険診療以前と遜色ない治療ができていると思います。ただ日本では混合診療ができないため、保険適用のない免疫抑制剤が必要な免疫異常の患者様は保険診療の恩恵が受けられていないのが現状です。
わいわいさんの場合、Th1/2比が非常に高く、これまでの流産歴や良好胚移植不成功の結果から考えても、免疫抑制剤は必要だと思います。
本来であれば、免疫抑制剤を使用して、最もグレードの良い胚を移植する必要があります。ただわいわいさんの場合、保険診療で採卵されているため、少なくとも1回は保険での移植が必要ですので、免疫抑制剤を医療機関から処方しての胚移植はできません。したがって、今回は2番目のグレードの胚、すなわち2つの4ABのうちの1つを戻し、妊娠にいたらなければ、自費診療に切り替えて、タクロリムスを併用して5ABを戻されることをお勧めします。

●Th1/h2比が高めの場合、タクロリムス治療の効果はどの程度期待できますか?
Th1/2:47.8はかなり高い値であり、タクロリムスを併用して妊娠につながる可能性はかなり高いと思います。逆に言うとタクロリムスを使用しなければ、これまでと同様の経過になる可能性が非常に高いと思います。いくら保険で治療ができても、妊娠に至らなければ意味がありません。わいわいさんの年齢から考えて、胚の要素(異常)だけが、これまでの反復不成功の要因ではないと思いますので、免疫異常も不成功の非常に大きな要素だと考えられます。
●「ニチモウバイオティックス ドクターイムバランス」の服用は免疫バランスに影響しますか?
「ニチモウバイオティックス ドクターイムバランス」がどこまで免疫バランスに影響するかは人を対象とした十分なデータがありません。
●移植周期における「ニチモウバイオティックス」の服用は問題ないでしょうか?
「ニチモウバイオティックス ドクターイムバランス」が何に作用するか具体的なデータがないため、なんとも言えませんが、市販されているサプリメントですので、おそらく問題ないように思います。ただ、これがTh1/2比を下げるエビデンスはありません。
ビタミンDはTh1/2を下げる作用があるとの報告がありますが、下げる効果はわずかであり、わいわいさんのような高値の方には、免疫抑制剤以外の選択肢は難しいと思います。
●自費移植を視野に入れる際に考慮すべきポイントや最適な移植計画について教えてください。
先に述べました通り、1回目の移植は保険診療で2番目のグレードの胚を保険診療で戻し、妊娠にいたらなければ、自費診療に切り替えて、タクロリムスを併用して5ABを戻されることをお勧めします。1回目の移植は手法を変えて、自然周期での移植も選択肢だと思います。
保険診療も万能でなく、どうしても自費診療が必要な患者様は少なくありません。必要な薬剤を使用せず保険診療内で治療を行っても、最も大切な受精卵を無駄にしてしまう可能性もありますので、ご夫婦でよく相談された上で、治療を進めてください。