1)胚(受精卵)の異常
流産の原因として最も多いのは、胚(受精卵)の異常です。
流産全体の約50〜60%は、胚の染色体異常によるものとされ、
特に初期流産ではその割合が高くなります。
これらの多くは偶発的に起こるもので、
ご本人やご夫婦の遺伝的背景に必ずしも問題があるわけではありま
せん。
良好胚が得られにくくなる要因の一つに加齢があります。
女性では年齢とともに卵子の染色体異数性(本数の異常)
が増加し、男性でも精子染色体の構造異常(部分重複や欠失など)
がみられるようになります。そのため、
年齢が上がるにつれて胚の染色体異常率(異数性・構造異常)
が上昇し、流産率が上昇します。
2)子宮環境の要因
胚が正常であっても、子宮内の環境が整っていない場合には、着床や妊娠の維持が難しくなることがあります。代表的なものとして、慢性子宮内膜炎や子宮内膜ポリープなどが挙げられます。
また、近年では子宮内細菌叢の乱れが着床障害や流産に関与することが分かってきています。
3)全身状態の要因
生活習慣(栄養・運動・睡眠など)、甲状腺機能や血糖値などの内分泌環境、そしてビタミンD・鉄・亜鉛・葉酸といった栄養状態は、妊娠の成立と維持に関わります。
また、血液が固まりやすくなる抗リン脂質抗体症候群(APS)などの自己免疫性疾患は、不育症の原因となることがあります。さらに、Th1/Th2バランスの乱れやNK細胞活性の偏りなどの免疫学的要因が着床や妊娠の継続に影響を及ぼすこともあります。
このように、流産の背景には「胚の質」「子宮環境」「全身状態」の三つの側面が複雑に関与しているため、これらを一つずつ丁寧に確認しながら、再発予防と次の妊娠に向けた準備を進めていくことが大切です。
②現在の状況で採卵を続ける場合の注意点
採卵を続けていく上では、卵巣刺激法の調整や生活習慣の見直し、サプリメントの活用などを通じて、卵子および精子の質を高める取り組みが重要です。これらの工夫によって、より良好な胚を得られる可能性が高まります。
また、別の観点として、採卵回数が増える場合には、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を併用し、胚の染色体を評価することも有用です。PGT-Aでは、胚の染色体数を網羅的に解析することで、妊娠に適した胚を選択する助けとなります。次世代シークエンサー(NGS:Next Generation Sequencer)と呼ばれる最新の解析技術を用いることで、胚の染色体を高精度かつ詳細に評価することが可能となります。
年齢とともに良好胚を得にくくなることはどうしても避けられず、採卵や移植の回数が多くなる傾向となりますが、PGT-Aを行うことで、染色体が正常である胚(正倍数性胚)を優先的に選択し移植することができるため、流産回避につながる可能性があります。
一方で、PGT-Aを行っても正倍数性胚が得られず、移植に適さないと判断される胚のみとなる場合もあり、有用性が実感しにくいこともあります。しかしながら、NGSにより胚の染色体構造を正確に把握することで、どの胚がより妊娠の可能性を秘めているかを見極める一助となる場合があります。
PGT-Aは、治療方針を見極めるための重要な判断材料であると同時に、治療をより効率的に進め、早期に方向性を定めるための有用な手段ともいえます。

③流産を防ぐための追加検査について
先にお伝えしたように、PGT-A検査はもちろん大切ですが、着床を成立させるためには子宮内の環境を丁寧に確認することも非常に重要です。そのため、子宮内細菌叢検査や子宮鏡検査を行い、着床や妊娠の継続を妨げる要因がないかを詳しく評価することをおすすめします。
慢性子宮内膜炎が疑われる場合には、子宮内膜組織検査を行い、CD138免疫染色によって形質細胞の有無を確認します。炎症が認められた場合には、抗菌薬治療などで改善を行います。
また、不育症関連検査や免疫バランス検査も有用ですが、過剰な負担を避けるため、必要性の高いものから段階的に進めることをおすすめします。検査の優先順位や適応は、これまでの治療経過や現在の所見を踏まえて慎重に判断していくことが大切です。
④流産を防ぐためのライフスタイル改善
流産のリスクを減らし、妊娠を安定させるためには、日々の生活習慣を整えることが大切です。卵子や精子の質は、食事やストレス、体温の影響を強く受けます。治療と並行して、体のコンディションを整える意識を持ちましょう。食事は1日3食、バランスを意識して摂ることが基本です。卵・魚・大豆・肉などの良質なたんぱく質をしっかり摂り、甘いものや精製糖質は控えめにして血糖値の安定を意識してください。
また、ビタミンB群・ビタミンD・亜鉛・葉酸・鉄などのビタミン・ミネラルを十分に摂取することも重要です。サプリメントでの補助も有効です。
また、体を冷やさないように注意し、ぬるめのお湯にゆっくり浸かる入浴習慣を持つことや、軽い運動・ストレッチで血流を促すことも効果的です。
最後に、ストレスはホルモンや免疫のバランスを乱す要因となります。完璧を求めすぎず、できる範囲で心と体をいたわる時間を持つことを大切にしましょう。温かい飲み物や入浴、自然の中でのリラックスなど、自分にあった方法でゆっくり過ごす時間も大切です。
⑤現在の治療以外でのご提案について
まず検討していただきたいのは、PGT-A検査、子宮内環境の確認、そして体質改善の取り組みです。現時点では、なつこさんの検査データを拝見しておりませんが、具体的な数値や結果があれば、それをもとに、どの部分を整えることが最も効果的かについて、より的確なアドバイスが可能です。
妊娠の成立には、胚の力はもちろん重要ですが、着床を支える子宮内環境や、全身の代謝・免疫バランスも深く関わっています。妊娠の可能性が高い胚を選択し、子宮環境を整えてから移植を行うこと、そして身体が妊娠を受け入れる準備が整っていることが大切です。
なつこさんが持つ最大限の妊娠力を引き出すために、身体の状態を丁寧に整えていくことが、次の大切な一歩になります。どうか焦らず、一歩ずつ進んでいってください。心から応援しています。