▶︎クロミッド®の効きが悪く、TSHも高めです
身長149cmで体重は46㎏。治療歴は間に休みを挟んだので、トータルで半年。タイミング法にトライ中。2020年に多囊胞性卵巣症候群(PCOS)と診断。月経周期は不規則。クロミッド®を5 日間服用し、今は生理開始14 日目。
数日以内に排卵する気配なし、1 週間後に受診予定。そこで排卵しそうにない場合はリセットして薬を替えましょうと医師から言われました。また妊娠希望にしてはTSH 値が3.59μ IU/ml と高めです。今、しておいたほうがいいことはありますか?

東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。東京慈恵会医科大学附属病院、獨協医科大学埼玉医療センター、みなとみらい夢クリニックなどの勤務を経て、おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮を開院。不妊症・不育症の治療から出生前診断までを網羅する珍しいクリニックです。
ふーみさんは排卵障害で悩んでいるようですが、このようなお悩みは多くみられますか。またクロミッドRを服用しても排卵しないこともあるのでしょうか。
大野田先生●ふーみさんは現在、27歳。若いのになかなか妊娠できないとお悩みの方の中には、排卵障害の方が結構いらっしゃいます。
生理不順ということなので、ノアルテンRを服用されたとのことですが、これは薬の力で一度生理を起こさせて体をリセットさせるためでしょう。その後、排卵を誘発させるクロミッドRを5日間服用されています。一般的には飲み終わって数日~10日前後で排卵が起こることが多いですが、排卵障害が強い場合は、反応が鈍いことがあります。
ふーみさんの場合は、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)と診断を受けていますので、通常よりも卵胞が育ちにくく、それゆえに排卵しづらいと考えられます。こういった場合は、薬を変更することで改善できる場合があります。クロミッドRと同じくらいの排卵誘発効果があるレトロゾールという内服薬に替えてみるのも一つの方法です。また注射によって排卵誘発剤を投与する方法もあります。経口薬に比べて、より大きな効果が期待できますが、その反面、体にかかる負担は増えてしまいます。ご自身にとってどの薬を使用するのがいいか、かかりつけ医と相談してみてくださいね。
検査をしたところTSHが3・59μIU/mlと高めだったそうです。これはどういった検査になりますか。
大野田先生●TSHは甲状腺刺激ホルモンのことで、甲状腺から分泌されるホルモン(T 、T )を調整する役割があります。ふーみさんの数値は、ご本人もおっしゃっている通り、妊娠希望にしては少し高い傾向にあります。この数値が高いと、橋本病という甲状腺の病気の可能性があります。また潜在性甲状腺自体には問題がないが、何らかの原因でTSHの値だけが上がる甲状腺機能低下症の場合も考えられます。具体的なメカニズムはわかっていませんが、流産を引き起こす可能性が高くなるため、妊娠を希望していてTSHが2.5μIU/ml以上の場合は、ふーみさんのように再検査や、かかりつけの医師から甲状腺の専門医を紹介してもらうのがいいでしょう。専門医であれば、TSHの高値が橋本病によるものか、甲状腺機能低下症なのかを詳しく調べることができるため、適切な治療を選択しやすくなります。これにより排卵障害を改善したり、流産する可能性を減らせると考えます。
TSH検査をするかしないかの判断は病院によって異なります。一律で検査をするところもありますし、月経不順とか、排卵しにくいといった徴候がある方のみ実施されているところもあります。ちなみに当院では、ほとんどの患者さんにこの検査を行っています。
ふーみさんが今、できる対策や、飲んだほうがいいサプリメントがあれば教えてください。
大野田先生●ふーみさんが妊娠しづらい理由の一つとなっている排卵障害ですが、原因として甲状腺にまつわるトラブルの可能性と多囊胞性卵巣症候群があります。この多囊胞性卵巣症候群は、病気ではなく、一種の体質のようなもの。ですから、体質を改善することで妊娠しやすい体へと変化する可能性も大いにあります。体質改善するには、適度な運動と規則正しい生活、バランスのとれた食事がとても大切です。基本的なことですが、そこを見直してみましょう。ちなみに近年、多囊胞性卵巣症候群の診断基準が変わり、①月経周期の異常、②多囊胞卵巣またはAMH高値、③アンドロゲン過剰症またはLH高値のすべてを満たすものとなりました。
サプリメントでは「これを飲めば万事解決!」というものは残念ながらありません。ただ、バランスのとれた食生活をサポートする一環で、マルチビタミンなどのサプリメントを活用するのはいいと思います。
今、ふーみさんは治療への意欲が落ちてしまっているようです…。
大野田先生●多囊胞性卵巣症候群であっても、ふーみさんのように若い方ならば妊娠、出産できるチャンスは大いにあります。ただ、やはり検査で悪い結果が出たり、期待していた治療で思ったような結果が出なかったりすると、気持ちも落ち込んでしまいますよね。でもうまくいかなかった治療も、次にどの治療法を選択するかの判断材料の一つとなります。いわば次の治療法を考える際の「糧」となるので、決して無駄にはなっていません。妊娠に向けて一歩ずつ進んでいますので、焦らずにかかりつけの先生と相談しながら治療に臨んでくださいね。