【Q&A】PRP療法と妊娠率~小川誠司先生【医師監修】

ココさん(41歳)

2月末に保険診療内で最後6回目の移植を予定しています。

今までの移植は以下の通りです。
①3BB 着床せず
②柔実胚 着床せず
③初期胚 1’着床するもhCGの値上がらず科学流産
④初期胚 2’着床せず
⑤初期胚 1’着床せず
いずれも内膜は8~9mmほどだったと記憶しています。
転院し、次6回目移植予定です。

最後の移植に向け、できるだけ着床率が上がるようにと、PRP療法を医師から勧められました。
保険適用内で治療をしたいという思いが強く、また着床するためにできることはすべてしたい、という思いはあるのですが、PRP療法においては先進医療でもなく、費用がおよそ20万と高額なため、迷っています。
着床率の上昇だけでなく、流産率の低下も見込めるという記事をインターネットで見たのですが、本当なのでしょうか。

比較的最近の治療法なので、臨床数がまだまだ少ないと思うのですが、実際にどれぐらいの方がPRP療法を受け、妊娠に繋がっているのか教えていただきたく存じます。

小川誠司先生に教えていただきました。

藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

●ココさんがこれまでに行った移植の結果を考慮に入れた場合、先生はPRP療法を推奨されますか?

PRP療法は当初は子宮内膜がなかなか厚くならない患者様に使用して有効である可能性が報告されてきましたが、最近では何回移植しても妊娠されないような、いわゆる“反復着床不全”の患者様にも使用され、有効であったとする報告も出てきています。
一般的に、形態が良好な胚を2〜3回以上移植しても妊娠されない方を反復着床不全と呼びますが、ココさんの場合、初回の移植以降は桑実胚と初期胚移植であり(初期胚を移植する治療選択が悪いわけではありません)、また年齢を考えますと、受精卵側の要因で、着床がうまくいかなかった可能性も低くはありません。
受精卵に異常がある場合、PRP療法を行っても着床率・妊娠率は上がりませんので、これまでの経過を拝見すると、ココさんに積極的にPRP療法をお勧めするだけの根拠がないように思います。むしろ、今回、4ABといった良好胚盤胞が得られており、PRP療法なしでも妊娠される可能性は十分にあると思います。

●PRP療法が着床率の向上だけでなく、流産率の低下にも寄与するという情報は正確なものでしょうか? また、比較的最近の治療法であることを考慮に入れた場合、その有効性や安全性についてどの程度のデータが得られているのか教えてください。

PRP療法後に流産率が低下したとする報告はいくつかあります。PRP療法の安全性や有効性に関する論文はこれまでにたくさんありますが、ココさんがご記載の通り、比較的新しい治療であるため、コクランレビュー(2024年)でもPRP子宮内投与の有効性は不確かとされており、確固たる有効性は定まっていないのが現状です。
PRP療法の効果が研究によって異なる大きな要因として、PRPは患者様ご自身から採取するため、個人差が大きいという点があります。PRPは血液中の血小板から作成しますが、血小板の数には個人差があり、また血小板中に含まれる成長因子の活性も患者様によって大きく異なります。またPRPと一言に言っても、作成方法は複数あり、またPFC-FD(Platelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry)など複数の製剤が混在していることも統一的なデータが得られにくい要因の一つになっています。

●実際に PRP療法を受けた方々の中で、妊娠に至った割合はどれくらいでしょうか?

これまで子宮内膜がなかなか厚くならない方を中心にPRPの子宮内投与を行ってきましたが、半数近い方が妊娠されています。既存の論文でも臨床妊娠率は約40~50%と報告されています。

●PRP療法の費用対効果について、先生の見解をお聞かせください。

確固たるエビデンスが定まっていないとはいうものの、実際にはPRP療法の恩恵を受けている方も少なくないと思います。受精卵側には問題がないにも関わらず、着床がうまくいかない方にとって、PRP療法は有効である可能性が高いと思います。
例えば、着床前遺伝学的検査(PGT-A)を実施して、正常胚を戻しているにもかかわらず着床しない方、良好胚盤胞は得られているが、内膜が薄くてなかなか移植することができない方にとって、PRP療法の費用対効果は高いと思います。
ただどんな方に行っても一律に妊娠率が上がるわけではありません。保険での最後の移植ということもあり、悔いのないようPRP療法を行うという選択肢はありだと思いますが、ココさんの現在の状況を考えますと、保険の範囲内だけで治療をしたいというお考えも間違っていないように思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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