Momoさん(41歳)
採卵を7回して、すべての胚盤胞をPGT検査しましたが、すべてモザイク胚か異常胚です。
一番クオリティの良いものは2AAで、染色体3,6,9,12,20番にそれぞれ20%のモザイクがあります。
こちらの胚を移植して出産まで辿り着く可能性はどれくらいでしょうか?
小川誠司先生に教えていただきました。
藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
●7回採卵してすべての胚盤胞がモザイク胚か異常胚だったのは、どのような原因が考えられますか?染色体異常の頻度は女性の年齢とともに上昇します。日本で行われたPGT-A臨床研究の結果ではMomoさんと同じ41歳の方の正常胚率(A判定胚)は約17%前後ですので、7回の採卵のうち、何個の胚を検査に出されたのかはわかりませんが、全て異常という結果もありえます。モザイク胚も同様で、加齢により頻度は上昇します。ただ、モザイク胚に関しては、実施する施設間でも生検技術により発生率に差があると言われており、2AAで生検されているということは、十分に胚盤胞が拡張する前に生検が実施されています。
胚盤胞が小さければ、採取できる細胞数も少なくなり、
テクニカルエラーやノイズが起きやすくなりますので、
本当は正常であってもモザイク胚と診断されてしまう場合がありま
す。
●具体的に染色体 3,6,9,12,20番にそれぞれ 20%のモザイクを持つ 2AAクオリティの胚の移植による出産成功率はどの程度でしょうか?
低頻度のモザイク胚は臨床成績も良く移植も考慮されますが、今回記載されている2AAは5カ所以上の染色体に跨った低頻度モザイクであり、いわゆるchaotic mosaicと言われる胚で、一般的には移植は推奨されません。
一方で、このようなchaotic mosaicを再検査した場合、24〜40%が正常であったとする報告もあり、一度融解して十分に再拡張させてから再検査を実施するという選択肢もあります。ただこの場合、複数回の生検と凍結融解を繰り返すことによる胚へのダメージも十分に考慮しなければなりません。もし他に優先すべき胚がないのであれば(グレードだけでなく、モノソミーかトリソミーか、単一か複数のモザイクかも考慮した上で)、この胚の移植を考慮してもよいかもしれません。
先に記載した日本のPGTA臨床研究では41歳でのB判定胚(低頻度モザイク胚)の臨床妊娠率は約50%と言われていますが、今回の場合はchaotic mosaicであり、この結果が正しいとすれば、妊娠率はぐっと低くなると思います(Munneらは3カ所以上もモザイクがある場合の継続妊娠率は9%と報告しています)。
●モザイク胚の移植に際して、何か特別な注意点や対策は必要となるでしょうか?
モザイクがモノソミーなのか、トリソミーなのかによっても異なりますが、もしこの胚を移植されるのであれば、妊娠された場合は羊水検査をお勧めします。
●Momoさんが再度採卵を行うことを考えた場合、正常胚を獲得するために何かできることはありますか?
Momoさんは41歳ですが、AMHは3.6と同年代の方より高く、複数の卵子が獲得できる可能性が高いため、確率的に正常な卵子が得られる可能性は十分にあります。
誘発方法(誘発プロトコール)の見直しや、培養環境の見直し(
培養液の変更、先にも述べた生検時期の見直し)
を行なっても良いかもしれせん。
施設により培養環境は異なりますので、
転院も考慮されているのであれば、
別の医療機関で採卵されるのも選択肢だと思います。
●Momoさんのようなケースで、他の不妊治療方法を検討するべきタイミングや条件について、先生の見解を教えてください。
Momoさんは採卵によりおそらく複数の胚盤胞が得られていると思いますが、先に述べた通り、年齢的には正常胚が得られる確率が低い状況にあります。
したがって、無闇に移植を繰り返すより、流産を未然に防ぐという意味でも、現在行われているPGT-Aが最も効率の良い治療だと思います。上記の内容を加味した上で、現在の治療を継続されることをお勧めします。