【Q&A】出生前診断~大野田章代先生

たぬきさん(31歳) 
出生前検査について、どの種類を実施するかで悩んでいます。
副作用として流産するものもあると聞きました。そもそも検査をするべきなのかも不安です。

おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮の大野田先生に、聞いてみました。

おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮 大野田章代 先生 
東京慈恵会医科大学 卒業、東京慈恵会医科大学附属 柏病院、国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター、東京慈恵会医科大学附属 柏病院、獨協医科大学埼玉医療センターを経て、おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮 副院長就任。
日本産婦人科学会専門医。日本女性医学会 女性ヘルスケア専門医。

 

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
妊娠がわかって嬉しい気持ちがある一方、お腹の中の赤ちゃんに何か異常があるのではないかと心配になるお母さんは少なくありません。出生前検査は、広い意味では妊娠中に行う赤ちゃんの検査すべてを指しますが、ここでは特にご質問の多い「染色体異常の有無を調べる検査」を指すこととします。
出生前検査には現在いくつもの種類があり、それぞれに特徴があります。大きくわけると、非確定的検査(いわゆるスクリーニング検査)と確定的検査に分けられます。
非確定的検査とは、染色体異常の可能性の高さ(リスク)を調べ、”ふるいわけ”(スクリーニング)する検査です。かつて日本では、お母さんの血液検査による血清マーカー検査が行われていましたが、この検査は妊婦さんの年齢が高いほど偽陽性(染色体異常ではないが検査が陽性となってしまうこと)が増加するため、以前より妊婦さんの年齢があがってきた現代では行われなくなってきました。
それに代わり、超音波検査の技術の進歩と共に行われるようになってきたのが、「コンバインド検査」です。コンバインド検査は、妊娠11週から13週の時期に行われます。超音波で計測した赤ちゃんの首の後ろのむくみ(NT:nuchal translucency)の厚さを計測するのに加え、お母さんの血液検査の結果(母体血清マーカー)を組み合わせて染色体異常の確率を調べる検査です。
NT以外に、鼻骨の有無、三尖弁血流(心臓内の部屋間の弁の逆流のひとつ)、静脈管の血流の波形および逆流、膀胱の大きさ、心拍数などに関して染色体異常を疑う所見があるかについても調べる場合もあり、調べる項目が多いほど、検査の精度が上昇します。この検査により、偽陽性率を低下させつつ、より精度の高い検査を行うことができるようになりました。(※ただし、コンバインド検査が行えるのは、正確に胎児評価ができることを証明する超音波の国際資格である「FMFライセンス」を取得している医療スタッフに限られます。)
一方で、2010年ごろに初めて登場したのが、「NIPT検査」、いわゆる「新型出生前検査」です。この検査は、お母さんの血液中に浮遊している、赤ちゃん(胎盤由来)のDNAの断片を分析することで、赤ちゃんの特定の染色体の数の異常を調べることができる検査です。国内では、基準を満たし、日本医学会において認可を受けた施設のみでNIPTが実施可能となっています。(※コンバインド検査とNIPT検査は、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの3つの疾患が検査対象となります。)
コンバインド検査とNIPT検査では、どちらも赤ちゃんへの影響がないことが共通していますが、検出感度の比較ではNIPT検査の方が高いです。ただし、コンバインド検査では超音波検査も行うため、赤ちゃんの形の異常のうち染色体異常が原因ではない形の異常についても早いうちから検査することができるという特徴があります。
確定的検査とは、赤ちゃんや胎盤の細胞、組織を採取し、それらの染色体を含めた遺伝に関する情報を調べる検査です。絨毛採取は、およそ妊娠11週以降で行われます。羊水検査は、赤ちゃんの周りの羊水が十分に増えてから(早くて妊娠15週以降)行われます。
いずれの検査も、お腹にいる赤ちゃんの絨毛や羊水を採取するのに子宮内に針を刺す必要があるため、検査による流産のリスクが上昇します。一般的には、羊水検査による流産率は1/300(0.3%)、絨毛採取による流産率は1/100(1%)といわれていますが、以前に比べてより安全に行えるようになってきていることがわかってきています。
妊娠の期間のいつ、どの検査を受けるかは、赤ちゃんの何を知りたいか、何を調べたいかによって選択されるのがよいでしょう。たぬきさんのようにまだ胎嚢が確認できた段階で、赤ちゃんの染色体異常の疑いが指摘されていないのでしたら、まずはスクリーニング検査を検討するのが妥当かと思います。ただ、もし、スクリーニング検査の結果、「染色体異常のリスクが高い」と指摘された場合や、その先の確定的検査で「染色体異常」が見つかった場合について、予めご夫婦で話合っておくのが重要かと思われます。
それぞれのご夫婦の事情や考え方によって、どの検査を選ぶかどうか、どこまで検査によるリスクを負うかなどは変わってきます。まずはご夫婦で話し合っていただき、迷いや疑問点が生じた場合には、遺伝専門医や遺伝カウンセラーにご相談ください。
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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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