不育症とPGTについて

着床までたどり着いても流産や死産を繰り返し、精神的な負担も大きい「不育症」。妊娠が継続できない原因や治療法はあるのか、不妊治療においてPGT(着床前遺伝子検査)はどのような役割を果たしているのか、はやしARTクリニック半蔵門の林裕子先生にお聞きしました。

はやしARTクリニック半蔵門 院長 林裕子 先生
早稲田大学第一文学部哲学科心理学専修、名古屋市立大学医学部卒。東邦大学産科婦人科学講座で生殖医療に携わったのち、2024年9月、「治療から妊娠まで、すべてに責任をもちたい」という思いで『はやしARTクリニック半蔵門』開業。心理学のカウンセリング技法を取り入れた不妊治療で精神面からも患者さんをサポートしています。

不育症の定義と4つの原因

「妊娠しても流産や死産を繰り返して出産に至らない」場合を不育症といいます。出産歴がある方や、習慣流産(3回以上連続する流産)、反復流産(2回以上繰り返す流産)、連続しない流産や死産の方も不育症に含まれます。不育症の4大原因と言われているのは「抗リン脂質抗体症候群」、カップルのどちらかの「染色体構造異常」、「子宮形態異常」、「胎児の染色体異常」。その他、内分泌異常や複数の要素が混合する場合、原因不明の場合があります。
これらの原因を調べるには、病歴の聴取に加えて血液検査や超音波検査、子宮卵管造影検査、子宮鏡やMRI等を行います。不育症検査は「すべて自費」「高い」と勘違いされている方もいらっしゃるようですが、基本的には保険適用の検査がほとんどで、自己負担はそこまで高額にはならないということを知っておいてください。

不育症の原因に応じて治療法や対処法は異なる

自己免疫疾患の一種である抗リン脂質抗体症候群の流死産の予防としては、低用量アスピリン・未分画ヘパリン療法が標準治療であり、出産率は70‐80%です。妊娠4週からアスピリン内服とヘパリン注射を開始します。夫婦どちらかの染色体構造異常(均衡型転座)の場合、ご本人の健康には何も影響はありませんが、卵子や精子ができる時に染色体の不均衡が発生することがあり、そういった卵子や精子が受精した場合は流産になります。一定の確率で正常な卵子・精子もできるため出産することも可能です。
染色体の変化を直すことはできないため、均衡型転座を持つ場合の対応は、自然妊娠での出産を試すか、着床前診断により不均衡な染色体をもたない胚を選択し移植するという治療になります。均衡型転座に対する着床前診断はPGTーSR(着床前構造異常検査)と呼ばれます。

PGTのメリット・デメリット

PGT-A(着床前染色体異数性検査)は最大の流産原因である胚の染色体異数性(数の異常)を調べる検査であるのに対し、PGT-SRは胚の染色体構造異常を調べる検査です。いずれも異常所見のない胚を子宮に戻すことで妊娠率の向上や流産率の低下を期待できますが、「命の選択」と捉えられる側面もあり、検査の対象となる方は限られています。希望すれば誰でもできる、というものではありません。

 

また、自然妊娠が可能な不育症の患者さんがPGTをするためには、体外受精・顕微授精を実施することになるため本来不要な身体的、経済的な負担が生じること、またPGTの診断の精度についても正確な情報提供を受けた上で、お二人にとって何がベストなのかということをしっかり話し合うことが大切です。

不育症は精神的ケアを含めた治療が大切

流産・死産を繰り返すと精神的な負担も大きくなってきます。流産・死産の後に、「自分が何かしたせいで流産したのか」あるいは「何かをしたから流産したのか」と、ご自分を責めてしまう患者さんには流産は妊娠の最大の合併症であり、約15%に起こること、また流産の多くは胎児の異常が原因で、女性の過失や不摂生で起こるわけではないことを説明します。
一方、年齢が上がるにつれ、胎児の染色体異常が増え、流産、そして不妊となるリスクが高まります。繰り返す流産死産のために妊娠自体をためらって治療をお休みする期間が長くなると、妊娠自体が困難になってしまう場合があります。
精神的なケアを含めた治療を提案してくれるクリニックを選んでほしいと思います。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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