【Q&A】PGT-A、A判定でも着床しません…~藤本先生【医師監修】

koroさん(44歳)

42歳から不妊治療をしています。
卵管が詰まっていると言われ、すぐに体外受精をし、他院で4回ほど良好胚を戻しました。2個ずつ戻したこともありましたが着床せず、その時の先生から「胚の見た目は良いのだけど、着床しないので、年齢的に難しいと思う」と言われ
ました。諦めきれず転院し、今まで病院から言われた全ての検査をしました。
エマ、アリス検査もし、着床の窓のずれなども検査していただき、万全の状態で、何度か行ったPGT-Aでやっと出たA判定の胚を戻しましたが、着床すらしていませんでした。
PGT-Aで初めてのA判定でしたし、70%は着床すると言われていたため、かなり落ち込んでいます。
先生には「残念だったけど、この年齢にしては胚がとれているので、(いつもアンダゴニスト法で10個以上は採卵できており、大体良好胚は5つくらいあります。ですが、PGT-Aに出すとモザイク胚だったので、10個以上だしてA判定は1つでしたが…)今回はダメだったけど、またチャレンジしてみてもいい」と言われ、今回で最後にしようと思っていたのですが、かなり悩んでいます。
PGT-AでA判定を戻しても何度も着床しない人もいると今回聞きましたが、どのくらいの人がそのようになるのでしょうか?このような状況ですが、今後妊娠の可能性があるのでしょうか。症例などがあれば合わせてお伺いしたいです。

藤本先生に聞いてきました

【医師監修】さっぽろARTクリニックn24 藤本 尚先生
日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、臨床細胞学会細胞診専門医。札幌医科大学産婦人科、神谷レディースクリニック 副院長を経て、医療法人社団 さっぽろARTクリニック開院し理事長に就任。2019年5月 医療法人社団 さっぽろARTクリニックn24開院。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

今回は数字の話が多くなります。数字はだれが見ても明白なもので、厳しい現実を突き付けられる部分もありますが今回の話を理解するには欠かせないものなのでさせていただきます。

まず、PGT-AにおけるA判定胚は正常染色体数で移植に問題がない正倍数性の胚であるということを意味します。このA判定の胚が得られれば、年齢に関係なく論文の報告にもよりますが60~70%程度の妊娠が期待できると言われています。まず、ここで不思議に思う人もいるかもしれません。正常染色体なのになぜ100%ではないのか?それは大げさでも90%くらいはあってもいいんじゃないの?と。確かにそうですが、これにも理由があります。

一つはPGT-Aという検査の精度の問題です。PGT-Aは胚の細胞の一部(5個前後の細胞)を採取してきて染色体を調べる検査のため、その結果が胚の正確な情報を100%反映しているわけではありません。正常という結果が出ても実際には正常ではないという胚があるということになります。他にも検査をするために胚の一部の細胞を採取してくるという行為自体が胚を傷つけることになり、胚がダメージを負い、せっかく正常な胚と診断されてもその胚を移植した際に、胚が死んでしまう可能性があります。

そのほかにも原因不明の母体因子などもあるため、A判定の胚を移植しても70%程度になってしまう(90%でも100%でもない)と考えられています。70%のくじ引きと考えると、もちろん1回目で当たればよしですが、当たらない人もいるのが70%です。当たるにはどうすればいいのか?これは回数をこなすことになります。1回よりも2回、3回と。そうすることで累積の妊娠率は上がっていきます。ここからは算数の問題になるのですが、1回の確率が70%で当たるくじ引き、3回引いて3回目までに当たる確率は計算上では97%になります。これはあくまでも理論値ですが、計算上はこうなります。決して100%にはなりませんがかなりの数字であると言えます。

一方でkoroさんも記載されていますが、何度か行ったPGT-Aでやっと出たA判定の胚とありましたが、その通りで正常染色体の胚を得られる確率は年齢と共に下がっていきます。こちらも論文によって報告に差はありますが、44歳ではPGT-Aを行った胚盤胞10個に1個正常胚が有るか無いかという確率になります。そして年齢が高くなるほど採卵の際に発育してくる卵胞数も減ってきます。一般的に44歳であればAMHもゼロ点台になるため、多くの人は排卵誘発を行っても発育してくる卵胞は5個以内で、採卵で採取できた卵子が受精して、分裂して凍結基準を満たした胚盤胞となると0~2個程度と考えられます。となるとPGT-Aを行う胚盤胞10個を確保するためには、少なくとも5回かそれ以上の排卵誘発採卵が必要になってきます。なかなか大変な数字といえると思います。

しかし、44歳になっても正常胚はあり、卵巣機能が比較的良好でAMHが年齢平均より高くコンスタントに採卵で胚盤胞を確保できる人であるなら、PGT-Aをすることで胚の選択をすることができて、胚移植当たりの妊娠率を上げることで時間を節約しながら妊娠を目指すことができると言えるでしょう。

そして、ここまでの話を踏まえてkoroさんがどう感じたか?になるのかなと思います。諦めたらそこで試合終了です、という言葉もありますが、今まで治療を行ってきて、もう1回A判定の胚を得る道のりをイメージできるのか?できないのか?はkoroさんにしかわからないと思いますので、いかに具体的にイメージしたうえで、再度トライするのかを検討してみるとよいと思います。

うまくいくことを陰ながら祈ってますね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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