「子宮がきれいなので、着床の窓はズレていない」と言われながら、移植を7回繰り返しても着床せず、胚盤胞は残り2つ。さまざまな不安要素もあって焦りを感じているムーさんには、どんな検査や治療の選択肢があるのでしょうか。山口レディスクリニックの山口一雄先生に教えていただきました。
1 子宮鏡検査で着床の窓の判定はできません
Q.子宮鏡検査が問題なければ、着床の窓も正常といえますか?
子宮鏡検査は子宮内膜のポリープや筋腫、炎症など、あくまで目で見える病変や感染を調べる検査です。一方の着床の窓は受精卵が正常に子宮内に着床できるタイミングを調べる検査であり、目的も検査方法もまったく異なります。ムーさんは子宮鏡検査を3回受けて、毎回、見た目のきれいな左側の子宮に移植しているとのことですが、主治医がなぜ「子宮がきれいなので、着床の窓はズレていない」と説明したのか、私には疑問です。
2 反復着床不全を疑い、全身の検査を提案
Q.、先生ならどのような検査を提案されますか?
7回移植しても着床しない場合は反復着床不全を疑い、まずは女性側の体がどのような状態なのか調べる検査を提案します。採血でわかるのは、各種自己抗体、免疫系、染色体について。ヘルパー細胞のTh1/Th2検査(子宮内膜着床能検査)は、体内に入ってくる精子や受精卵を異物として排除する免疫反応が起きているかを調べます。現段階ではまだ100%のエビデンスはありませんが、免疫抑制剤が治療に効果的という説もあります。染色体異常が着床不全の原因になることもあるので、親になる二人の染色体検査も選択肢の一つになります。
また、着床の環境を調べることも大切です。どんなにいい受精卵を移植しても、子宮内に問題があれば着床しづらい、できない、ということはじゅうぶんに考えられます。ALICE検査で慢性的な細菌感染があれば抗生剤で菌を叩いてから移植、EMMA検査で子宮内フローラが乱れていれば移植周期に乳酸菌を補充。そして着床の窓を調べるERA検査。この3つを同時に行うのがTRIO検査ですが、もし細菌による炎症があれば着床の窓が変わる可能性があると言われているので、ERA検査は除菌したあとに行ったほうがいいという意見もあります。
3 原因を追求してから今後の治療方針を決める
Q.次の移植までにできることはありますか?
各種検査は結果が出るまで早くても3週間、長ければ2か月程度かかることもあります。現在、胚盤胞は2つ残っていますが、すでに7回移植していることを考えると、結果が出るまでの間はあえて戻さず、もし時間が惜しいと思うのなら採卵だけ行いながら移植の日を待ってみてはいかがでしょう。
そのうえで、やはり結果が出ない周期がつづくようであれば、自費診療にはなりますが子宮内膜の活性化を目的としたPRP療法や、着床前診断で着床率が高く流産率が低い胚を戻す方法を検討する段階になると思います。
これ以上、同じ治療を繰り返すのではなく、まずは胚の受け皿である体と子宮内の状態を調べ、原因が見つかれば対処する、ビタミンDや葉酸などのサプリも試してみるなど、ムーさんにとってベストな方法を選択していただきたいと思います。