【Q&A】採血~吉川先生

みやちゃんさん(35歳)

卵管閉塞で体外受精をしています。
先日、他のクリニックでは抗核抗体の採血も最初にしていると見たので、クリニックで質問しましたが、あまりルーチン検査としてはやっていないと言われました。
体外受精でも繰り返す流産の際に、NK細胞などの抗体の採血をして発覚した方などもいますが、
なぜ事前に採血をしないのでしょうか??

自分の通院中のクリニックでは、あまりしないと言われたので、自分でしてみたところ、抗核抗体が40倍で陽性でした。
抗リン脂質抗体も念のため今度調べようと思いますが、なぜルーチン検査として事前に調べないのか疑問に思い質問したいです。

津田沼IVFクリニックの吉川守先生に伺いました。

吉川 守 先生(津田沼IVFクリニック)
1991年山梨医科大学(現・山梨大学)卒業。亀田総合病院、船橋二和病院、セントマーガレット病院、山王病院などを経て、2010年11月I津田沼IVFクリニックを開設。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
●流産のリスク因子となる検査について、初期の検査では一般的にどのような検査を行うことが多いですか?

厚生労働省のFuiku-Laboというサイトが参考になると思います。

http://fuiku.jp/fuiku/risk.html

不育症のリスク因子別頻度では、子宮の形が通常と異なる子宮形態異常7.8%、甲状腺の異常(機能亢進症もしくは機能低下症)が6.8%、両親のどちらかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体陽性が10.2%、凝固因子異常として第XII因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%です。
これらに対応した検査を行っていきます。

●不育症に関わる検査で、いくつかは流産既往がある場合にしか調べない理由について教えてください。

抗リン脂質抗体症候群診断基準に、「臨床所見が1つ以上」とあるからだと思います。

この基準に当てはまらないと、検査が陽性であったとしても、抗リン脂質抗体症候群とは診断されません。

<臨床所見>
血栓症:1回またはそれ以上の
・動脈血桂
・静脈血桂
・小血管の血栓症(組織、臓器を問わない)
妊娠の異常:

  ・3回以上の連続した原因不明の妊娠10週未満の流産
    (本人の解剖学的、内分泌学的原因、夫婦の染色体異常を除く)
1回以上の胎児形態異常のない妊娠10週以上の原因不明子宮内胎児死亡
1回以上の新生児形態異常のない妊娠34週末満の重症妊娠高血圧腎症、
   子癇または胎盤機能不全に関連した早産

●抗リン脂質抗体とはどのようなもので、どのように妊娠や流産に関わっていますか?

細胞の生体膜はリン脂質二重層(外葉と内葉)からなり、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)のようなさまざまな種類のリン脂質によって形成されています。

リン脂質に対する抗体(抗リン脂質抗体)には、β2-グリコプロテインIやプロトロンビン、キニノーゲンなどのようにリン脂質に結合して構造が変化したリン脂質結合蛋白に対する抗体(抗β2-グリコプロテインI抗体)、抗プロトロンビン抗体(ループスアンチコアグラント)、抗キニノーゲン抗体)と、カルジオリピンなどのようにリン脂質そのものに対する抗体(抗カルジオリピン抗体)があります。

抗リン脂質抗体症候群とは、抗リン脂質抗体を有し、動・静脈の血栓症、血小板減少症、習慣流産・死産・子宮内胎児死亡などをみる症候群です。
抗リン脂質抗体症候群における流死産発症機序には、抗リン脂質抗体による

1)絨毛細胞への結合による絨毛の発育障害
2)子宮胎盤循環における血栓形成作用
などが考えられています。

●抗核抗体をはじめ、習慣流産を起こしやすい自己抗体が陽性の場合、どのような治療をするのでしょうか?

抗リン脂質抗体症候群合併妊娠が無治療であった場合、約90%は流死産、早産になるとされます。

適切な治療が行われた場合、70~80%の確率で生児を得ることができるとされます。適切な診断と治療が必要なことがわかります。

抗リン脂質抗体症候群診断基準の臨床所見や検査所見を満たさない場合でも、抗リン脂質抗体が陽性の女性では、妊娠や出産に関する検査や治療を要することがあります。

ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン時間(aPS/PT)や抗ホスファチジルエタノールアミン抗体(aPE)などのように、抗リン脂質抗体症候群診断基準に記載されていなくても、流産や血栓症の原因となったり、不育症において治療により妊娠率が増加する検査があります。

低用量アスピリン(LDA)と未分画ヘパリン(UFH)の併用療法が、流死産のリスクを低下させます。
抗リン脂質抗体が胎盤形成の早期から影響する可能性があるために、妊娠前、或いは妊娠後なるべく早くから低用量アスピリンを内服し、妊娠判明後のなるべく早くにヘパリンを併用します。

UFHの量:血栓症の既往なし;5,000~10,000単位/日(皮下注射1日2回、予防的用量) 血栓症の既往または現在治療中;12,000~20,000単位/日(皮下注射1日2回、治療的用量)

複数の抗リン脂質抗体が陽性であったり、抗体価が高値の場合は妊娠経過が不良となることがありますので、治療を強化することを検討します。
低用量アスピリン、ヘパリンの中止時期に関しては、抗リン脂質抗体症候群の診断基準、特に臨床所見に応じて判断します。
適切な時期を決定して、出産に臨みます。
産後の抗凝固療法は、必要に応じて行います。

抗核抗体は細胞核の成分を抗原とする自己抗体で、膠原病のスクリーニング検査となります。

膠原病は自分の細胞の核に対して自己抗体を産生します。

しかし、核には様々な成分が含まれていますので、ある成分に対する抗体が産生されても悪影響を及ぼさないことも多いので、抗核抗体陽性のみでは膠原病と診断できません。

抗核抗体は特異度の低い検査で、膠原病以外でも陽性になることがあるばかりか、健常人でも陽性となることがあり、40倍以下が20~30%、80倍以下が10~12%、160倍以下が5%、320倍以下が3%という報告もあります。
抗核抗体陽性であっても無症状の場合には、必ずしも専門医へ相談する必要はありません。

みやちゃんは、卵管閉塞による不妊症が考えられる一方、不育症ではありませんので、抗核抗体や抗リン脂質抗体を不妊症のルーチンの検査として調べることは一般的でないと思います。

まず行なうことは、体外受精や顕微授精という明確な治療方針があるからです。
これで高頻度に多前核が形成されるなどの異常が認められれば、抗核抗体などの検索が行われるのが通常だと思います。
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