着床障害と不育症 第二回 着床障害と不育症の原因

どうすれば早く妊娠に近づける?くわしく知りたい!着床障害と不育症の原因

胚移植を繰り返してもなかなか妊娠しない着床障害。早く妊娠に近づくためには、どんな検査や治療が必要でしょうか。代表的な検査と治療から近年注目の先進医療まで、レディースクリニック北浜の奥裕嗣先生に教えていただきました。

レディースクリニック北浜 奥 裕嗣 先生 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute forInfertility and Menopauseにて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。

子宮鏡検査で見つかる子宮内膜ポリープも一因

着床障害は明確な診断基準がなく、体外受精で形態的に良好な受精卵(胚盤胞)を2〜3回移植してもうまくいかない方は、着床障害の可能性があります。できるだけ早く赤ちゃんを授かるためには、着床障害の検査で原因を見つけ、それに対する適切な治療が必要です。

おもな原因の一つは、受精卵を受け入れる子宮側の問題です。なかでも子宮鏡検査では子宮内膜ポリープが多く見つかり、摘出手術が検討されます。当院では手術後に胚移植を行った方が多く妊娠されています。

また、異常は見つからなくても、子宮鏡検査をしただけで妊娠率が上がるという報告もあります。理由の一つは、検査の時に子宮内膜が刺激されるためです。これは着床しやすい環境を人工的につくり出す「子宮内膜スクラッチ」と似た作用があることが考えられます。もう一つは、子宮の中に生理食塩水を流しながら検査を行いますので、子宮内膜に慢性の炎症があれば、これを洗い流すことにより、着床しやすくなるといわれています。子宮鏡検査は超音波検査では見つかりにくい、小さな子宮内膜ポリープや子宮内腔の癒着も発見できますので、着床障害の方にはとても有効な検査だと思います。

先進不妊検査と治療で妊娠率が高まる可能性も

近年は、子宮内膜の着床環境(着床の窓のズレ、ラクトバチルスの減少、慢性子宮内膜炎)が着床や妊娠にかかわっていることがわかっています。エンドメトリオ(ERA・EMMA・A LICE)とよばれる検査は、子宮内膜の一部を採取し、遺伝子レベルで原因を特定できる検査です。ERA(子宮内膜着床能検査)は、一人ひとり異なる着床の窓を特定し、最適なタイミングに胚移植して妊娠率を高めます。EMMA(子宮内マイクロバイオーム検査)は、子宮内の細菌の種類と量を調べます。乳酸菌(ラクトバチルス)の割合が十分でない場合は、乳酸菌製剤やサプリメントで着床環境を整えていきます。ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)は、子宮内膜炎を起こす細菌を調べ、必要に応じて適した抗菌薬で治療することが可能です。

また、着床障害で子宮内膜が薄い方には、子宮内膜の血流を促すために、アスピリン療法や、男性の勃起障害に使われるシアリスやバイアグラRを腟に挿入する治療、さらに、ホルモン補充周期に抗酸化作用をもつビタミンEを使った治療があります。それでも子宮内膜に問題がある方は、胚移植の前に自分の血小板を子宮内膜に注入するPRP(多血小板血漿)療法も有効だと考えています。

不育症検査を応用して根本原因にアプローチ

着床障害の要因としてもう一つ考えられるのが、母体側の血液の問題です。当院では、着床障害の方に不育症検査を応用しています。着床障害と不育症は、抗リン脂質抗体、血液凝固系、免疫系など、根本的な原因がつながっていると考えられます。採血検査の結果、抗リン脂質抗体や血液凝固系に異常がある方は、アスピリンやヘパリンを単独または併用し、血液が固まるのを防ぐ治療を行います。また、免疫系に異常がある方は、ステロイド薬(プレドニン)や漢方薬(加味逍遙散、柴苓湯)で免疫を抑制する治療を行います。なかでも当院の経験では、抗リン脂質抗体や血液凝固系など血液の循環に問題がある方が多く見受けられ、他の施設でうまくいかない方でも、当院で検査と治療されると妊娠されるケースは数多くあります。

また、受精卵側の問題では、形態的にきれいな良好胚盤胞でも、その約40%は染色体異常といわれています。染色体異常そのものを治すことはできませんので、近年、臨床研究が進んでいるPGT -A(着床前胚染色体異数性検査)が今後は有効な検査になるでしょう。

着床障害の方は、質のいい受精卵はできているということですから、これから妊娠する可能性は十分あります。さらに詳しい検査で原因を究明し、適切な治療を行うことにより、確実に妊娠のチャンスは高くなると思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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