中村先生に聞いてみよう!不妊治療の最前線
― 今回のテーマ「PGT-A( 着床前胚染色体異数性検査)」 ―

なかむらレディースクリニック 中村 嘉宏 先生 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。

着床不全や流産にかかわる胚盤胞の染色体数の異常を調べる

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は、着床前の胚盤胞に染色体数の異常がないかを調べる方法です。ヒトの正常な染色体数は46本です。しかし、染色体数が多い、少ないなどの異常があると着床しにくい、または流産しやすいことがわかっています。

PGT-Aの具体的な流れは、まず受精卵を「赤ちゃんになる内部細胞塊」と「胎盤になる外部細胞塊」に分かれた段階である胚盤胞まで培養します。そして、胎盤になる部分から5つくらいの細胞を生検してDNAを抽出。これを次世代シーケンサーという機械にかけて解析を行い、染色体数に異常がないかを調べます。

PGT-Aは多施設特別臨床研究として行われている検査で、当院も承認施設の一つです。次の①②どちらかが当てはまる方が対象になります。

•胚移植をしても2回連続で着床 しなかった方(反復ART不成功)

•2回の流産歴がある方(不育症)

なお、②の流産歴のある、いわゆる不育症の方は、PGT-Aを受ける前にご夫婦の染色体の数や構造の異常を調べる「夫婦染色体検査」が必要になります。その結果、検査で異常がなければPGT-Aを行います。一方、ご夫婦のどちらかに転座とよばれる染色体の異常が見つかった時は、PGT-SRとよばれる着床前診断の対象になります。

不要な胚移植の回数を減らし、妊娠までの時間を短縮できる

着床不全や流産の原因の約8割程度は受精卵の染色体数の異常だと考えられています。

そのため、PGT-Aを行い、染色体数に異常のない胚を移植することで、胚移植あたりの妊娠率が向上し、流産率が低下することが期待されます。現在の大規模な特別臨床研究は進行中で完了していないため、まだ結果が出ていません。そのため、2016年からPGT-Aの有効性を調べるために実施されたパイロット試験の結果を見てみましょう。反復ART不成功群では、PGT-Aを実施していないグループの妊娠率は30%なのに対し、PGT-Aを実施して染色体数が正常な胚盤胞を移植したグループでは、胚移植あたりの妊娠率が70%と通常よりも高い結果が出ています。また、原因不明習慣流産群では、PGT-Aをしないグループの流産率が45%なのに対して、PGT-Aを実施したグループは、流産率が12・5%に低下しています。反復着床不全群でも原因不明習慣流産の群でも、胚移植あたりの生児獲得率は、それぞれ62・5%、52・4%とPGT -Aを施行していないグループより高い確率を示しています。

加齢により、染色体数の異常は増加します。30代後半になると、見た目が良好な胚盤胞のなかでも3個に2個は染色体数異常といわれています。染色体数異常の有無は見た目では判断できないため、形態良好でも染色体数異常のある胚盤胞を移植しても着床しない、または流産する可能性が高くなります。PGT-Aを行い、染色体数が正常な胚盤胞のみを移植することで、不必要な胚移植の回数を減らすことが期待できます。その結果、妊娠までの時間の短縮につながります。さらに、海外ではPGT-Aによって出産に至るまでの費用が低下するという報告もあります。

検査のメリットとデメリットを理解したうえで参加の検討を

ただ、PGT-Aは万能ではありません。検査のために細胞を取り出すので、胚盤胞へのダメージも心配されます。また、染色体数が正常な胚盤胞であっても、そのうちの30%は妊娠に至ることができず、流産率も10%程度あります。

一番難しい問題は、胚盤胞のなかに正常な細胞と異常な細胞が混在する「モザイク胚」の問題です。たとえば、染色体数を検査した5つの細胞のうちの2つが正常で、3つが異常なモザイク胚でも、正常な赤ちゃんが生まれた実例もあります。モザイク胚の取り扱いに明確な指針がありませんので、本来であれば赤ちゃんになるはずの胚盤胞を廃棄する可能性も指摘されています。

しかしながら、年齢が高くなると治療の時間が少なくなるとともに、妊娠率は低下し、流産率は上昇します。PGT-Aは妊娠率の向上と流産率の低下が期待できる検査です。対象になる方は、この検査が本当に有効かどうかを検証するために、臨床研究に参加していただければと思います。

次回は「着床しやすい時期」を調べるERA検査についてお話しします。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。