着床不全の治療研究 最新レポート

これまで原因解明や治療は難しいとされてきた着床不全ですが、 最近は研究が進み、再生医療を応用した画期的な治療が開発される段階に。

どんな最新療法が研究されているのか詳しくレポートします。

 

着床させるためには 子宮内膜をベストな状態に

排卵誘発法を工夫して何とか卵子を確保し、受精卵も できて移植。あとは受精卵が子宮に無事着床してくれる ことを願うばかりですが、この最終段階でなかなかうま くいかず、不妊治療につまずいてしまう人もいるのでは ないでしょうか。

これまで着床不全を根本的に解決する方法はありませ んでしたが、近年、少しずつですが、着床率を上げるた めの研究が国内外で進んでいます。

受精卵がしっかり着くためには子宮内膜が厚く、血流に 満たされてフカフカの状態であることが理想。子宮内膜が 薄くて着床不全が疑われる人には座薬や内服薬によるホル モン補充、ビタミン剤やアスピリンの投与、子宮内GーC FS投与、内膜スクラッチなどを実施している施設も。

着床の窓や子宮内環境を 調べる新たな検査も登場

子宮内膜に対する比較的新しいアプローチとしては今、 「ERAⓇ(子宮内膜着床能検査)」という検査が注目され ています。これは胚盤胞を移植する際、移植当日の子宮 内膜が着床に適したタイミングになっているかどうかを 遺伝子レベルで調べるもの。良好な胚を複数回移植して も着床しないケースに有効だとされています。しかし、 周期によって着床の窓が異なる場合があり、結果を出す のに時間(2~3週間)を有する検査は意味がないので はという医師も。また、非受容期と判断された場合は再 検査が必要な場合もあります。

さらに最近、多くの不妊治療専門施設でとり入れるよ うになったのが「子宮内フローラ検査」。腸内と同様に、 子宮内の細菌バランスが乱れ、環境が悪くなることで着床が妨げられているのではないかという発想から、行わ れているものです。問題があった場合は乳酸菌を投与す るなどの措置がとられますが、改善する方法については まだ手探りの状態です。

国内でも再生医療を応用した 着床不全の研究がスタート

このようにさまざまな形で着床不全の改善に取り組ん でいますが、まだ決定的な方法がないのが現状。そんな なか、新しい治療アプローチとして、再生医療を応用し た多能性幹細胞の研究が話題になっています。

幹細胞とは分裂して自分と同じ細胞をつくる能力と、 さまざまな細胞に分化する能力をもつ特殊な細胞のこと。 幹細胞にはいろいろな種類が存在し、それぞれの臓器が 異なる幹細胞をもっていると考えられています。

国内では今年、福岡大学医学部がこの細胞を使った再 生医療に乗り出したことを発表。子宮内に脂肪幹細胞を 注入することで子宮内膜の血流を促進させ、受精卵の着 床率を改善する研究を開始し、1例目の女性では子宮内 膜の働きが増したということを確認しました。

海外ではすでに 10 年ほど前から幹細胞を使った着床不 全・子宮内膜不全の研究が進められていますが、ネック となっているのは再生医療法で、幹細胞そのものは容易 に臨床医療で使用することはできないのです。

月経血幹細胞の上澄みを 使った画期的な治療を開発

そこで、東京・渋谷区にあるはらメディカルクリニッ クでは同じ再生医療の応用でも、少し発想を変えた新た な治療法「子宮 内膜再生増殖法 (ERP 法)」を 独自に開発。これ は幹細胞そのもの ではなく、幹細胞 培養液の上清液(上澄み)を利用したもので、再生医療法をクリアできる うえ、やり方も非常に簡単という画期的な治療法です。

具体的な方法は、まず自身の月経血から抽出した幹細 胞を 30 日間培養し、その上清抽出成分を 1.5ml ほど子宮内 に注入。月経血幹細胞には成長因子や細胞間に作用する 生理活性物質であるサイトカインの分泌が知られており、 傷ついた組織を修復したり、細胞新生の能力が非常に高 いという特性があります。上清液中にもこれらが含まれ ていて、子宮内膜の再生増殖が期待できるほか、予想外 の利点として上清液には胚の成長を促進する物質も含有 されているということが確認されています。

月経血に分離剤を添加し、遠心分 離処理を行った。低層:赤血球、 中低層:分離剤、中層:月経血、 上層:希釈液と血液が分離している。

同クリニックでは約 2 年間の臨床実験を通して、希望 者にこの治療を行いましたが、ほぼ全員の子宮内膜がしっ かり厚くなったという結果が出ました。まだ新しい再生 医療の応用ということで副作用が心配ですが、元になっ ているのは自分の血液なので免疫的な異常は起きにくく、 安全性は高い治療だと考えられています。

*本研究は先端医療推進機構倫理委員会の承認を受けています。

上はERP法を使った19日目の 子宮内膜の状態。下の自然周 期における19日目の子宮内膜 の状態と比較すると、厚みを増 しているのが確認できる。

同クリニックでは 2019 年春から本格的に臨床治療と して導入する予定ですが、まだまだ精査すべき点も。たとえば、幹細胞培養液注入時期に関して現在さらなる検討中 ですが、現状では移植2、3日前に液注入を予定しています。

適応になるのは高齢の人、何をしても子宮内膜が厚く ならない人、いい受精卵を何度戻しても着床しない人、 原因不明の流産を繰り返す人などです。

ブラックボックス解明も もうすぐという段階に

過去に誰もやったことがなく、未知数の方法ですが、 データが蓄積され、治療法が確立されてきたら、子宮内 膜にも受精卵にもいい影響を与えるという先進的な治療 になることは間違いありません。これまで原因や対処法 がはっきり解明されず、ブラックボックスといわれてい た着床や子宮内膜に関する領域ですが、再生医療という 人類にとって新たな医療を活用することで、急速に研究 や治療が進んでいくことが予想されます。

脂肪幹細胞、月経血幹細胞の利用はそのステップの一つ。 研究がさらに進んでいけば、着床不全で悩む人にとっては朗 報になるかもしれません。今後も注目していきたい分野です。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。