卵子の老化とは?

卵子 の老化とは? その意味を知り、 いかに向き合うのか

40代の不妊治療で知っておきたい「卵子の老化」。

治療内容や選択肢として考えら れることは? セントマザー産婦人科医院の田中温先生にお話を伺いました。

 

田中温先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、診療後なら という条件付きで不妊治療の研究を許される。度重なる研究と実験は 毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本初のギフト法による男児 が誕生。1990年、セントマザー産婦人科医院開院。日本受精着床 学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。「腹腔鏡のスキルアッ プと日々の研究・実験に全力を注ぐため、6時間睡眠を心がけるなど健 康に気遣うようになりました」と語る田中先生。提携企業の社員の未 受精卵凍結をサポートするという新しい取り組みにも着手したそうです。

ドクターアドバイス

閉経は素晴らしい贈り 物。この先も続く人生 の幸せのために、最善 の方法を夫婦で考えて。

晩婚化が進むなか、 ARTの平均年齢は40 歳という現実

一般的に、 40 代は卵子の質が 確実に落ちていて、仮に妊娠し ても流産率はとても高くなりま す。個人差はありますが、 42 歳 までは治療次第で結果が出る可 能性はありますが、それ以上の 年齢になると難しい。不妊治療 の助成金を受ける女性の年齢が43 歳未満というのも、そのよう な理由に基づいているのです。

晩婚化に伴い、女性の不妊治療 を開始する年齢も高く、高度生殖 医療(ART)を受ける平均年 齢は 40 歳。「子どもが欲しい」と いう希望に対する治療ですから、 「卵子の老化」は非常に高い壁となり、悪者としてクローズアッ プされて当然でしょう。しかし、 まずは「閉経」という現象につ いて正しく認識していただきた いというのが私の考えです。

NGワードではない? 閉経の意味を 正しく理解する

哺乳類で閉経があるのは人間 とシャチとゴンドウクジラだけ で、ほかは死ぬまで産み続け、産 み終えて死ぬ。ではなぜ、人間は 閉経するのでしょうか。人間は種 を保存し残す過程で、出産に伴 う死や健康を害するものをなく すために閉経という現象を手に 入れたと言えます。女性の閉経 が 50 歳だとしたら、閉経後も 30年、 40 年とそれまでの人生と同じ くらい長い歳月を生きることが できるのです。これは女性にとっ て素晴らしい贈り物です。その ために、年齢とともに卵子の質 を落とし、数を減らしていき最 終的にゼロにする、妊娠しない、 妊娠しても流産する、というとて も合目的な進化です。 40 代以上の 不妊治療は人間の自然の流れに 反していて、結果が悪くなるのも 当然なのです。女性なら誰もが逃 れられない現象であると同時に、 女性が健康で長生きするために 手に入れた進化でもあるのです。

その観点で 40 代の不妊治療につ いて話を進めていきましょう。

現在の不妊治療は、医者も患者 さんも可能の限りを尽くそうと します。最終的に子どもを授か ることができる患者さんもいま すが、妊娠率は約6%と低く、染 色体異常などによる流産率は約60 %まで跳ね上がり、ほとんどの 夫婦はARTでも子どもを授か ることができません。日本の人口 動態調査から出生率 1.8 %、年間30 万人は子どもが生まれなけれ ば100年後の人口は現在の半 分以下に減ると危惧されるなか、現在の出生率 1.3 %、そのうち不妊 治療で生まれる子どもは年間約 4万人程度。これが平均年齢 40 歳 の不妊治療の限界なのです。

終わりの見えない治療に疲れ 果て、金銭的にも苦しくなり、子 どもを授からないまま治療をや めていく。治療中に夫婦仲が壊 れ、離婚に至るケースも珍しく はありません。では、ARTでも 難しい夫婦は、いつ諦めるのか、 いつ方法を変えるのか。私は、不 妊で苦しんでいる夫婦がそれで も子どもを強く望んでいる場合 は早い段階で「養子、もしくは卵子提供を視野に入れてください」 と伝えます。日本ではまだ卵子提 供の条件が厳しいのですが、高い 確率で子どもを授かることがで きる台湾での卵子提供を選択す る夫婦は急増しています。台湾は 国レベルで卵子提供をサポート するため、当院では希望されれば 台湾のクリニックを紹介します。

里親・養子縁組制度は各自治 体にあります。血縁を重んじる 日本人の国民性からか、抵抗感 のある方も見受けられますが、 「子どもを育てたい」という観点 から選択肢の一つとして考えて いただきたいです。

人生を大切にしてこその 治療を心がけて

国は女性管理職の割合を2020 年までに 30 %にすると掲げてい ますが、妊娠出産してもキャリ アが失われない環境が整わなければ晩婚化はさらに進むでしょ う。行政、国政にはいつまでも 先送りにせず真剣に考えること を望みます。

女性には「子どもを産みたい」 という母性本能があります。これ は男性には想像もできないほどと ても強いものです。遺伝子的に卵 子の老化は逃れられないのに、母 性本能を捨てきれないからこそ、40 代の治療はつらく、苦しいも のになっているケースも多いで しょう。だからと言って、気持ち まで老化してはいけません。心折 れず前向きに、どれだけ自分のモ チベーションを高く保てるか。今 後も続く二人の人生がベースにあ ることを忘れずに、ネガティブな 意識に惑わされず、幸せに生きる ことをモットーにしていただきた い。それが、 40 代はもちろん、現 在進行形で不妊治療を頑張ってい るすべての年代の皆さんへの私か らのメッセージです。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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