「刺激?自然? 排卵誘発はどの方法がいいですか」
低刺激で採卵当日に排卵……
私の場合、排卵誘発はショート法しかないの?
松山 毅彦 先生 東海大学医学部卒業。小田原市立病院産婦 人科医長、東海大学付属大磯病院産婦人科勤 務、永遠幸レディースクリニック副院長を経て、 1996年厚仁病院産婦人科を開設。日本生殖医 学会生殖医療専門医。おひつじ座のA型。40 代以上の患者さんも多く訪れる厚仁病院。最 近、『タイムラプス』のバイオシステムを導入し ようと検討しているそうです。
ドクターアドバイス
●刺激周期にもいろいろな方法がある
●AMHの数値も指標になる
●クロミフェン製剤の使い方次第で排卵を抑えられる
沈丁花さん 42 歳 Q.低刺激で排卵済み、ショート法しかないでしょうか? 高齢ですが、1年に一度妊娠できているため、流産を繰り返して も諦められずにいます。これまで低刺激で2回行い、採卵当日に 排卵してしまっています。排卵済みをふせぐためにアンタゴニス トや座薬を使うこともあるそうですが、私の場合は「アンタゴニ ストを使うと卵胞が縮んでしまう」「排卵済みを防ぐには高刺激 にするしかない」と医師に言われました。他はずっとショート法 で、採卵数にばらつきがありますが、その都度、新鮮初期胚移植 は行えています。アンタゴニスト法などほかの方法はないのか、 それともショート法で3回妊娠できているので、このまま続けた ほうが良いのか、教えてください。
治療データ
【検査・治療歴】
治療歴3年。7回採卵を行い、1回目から4回目まではショー ト法、5・6回目はクロミッドⓇ+HMG注射による低刺激法、 7回目はショート法。
低刺激の時は2回とも排卵済み。
3度 妊娠するも流産。
不育症検査は問題なし
【現在の治療方針】
最近の妊娠時でNK活性47と高値だったため、プレドニン 5mgを服用中。次回の採卵はピル・ショート法の予定。
現在 プラノバールⓇ服用中。
【精子データ】
濃度3340万/ml(量3.2ml)、
運動率43%、
運動性B、
正常形態率32%
刺激法について
流産してしまうこともあり、他の方法を探した い気持ちもわかります。低刺激の方法では採卵日 にすでに排卵してしまっている人の場合、やはり ショート法の他によい方法はないのでしょうか。
松山先生 刺激周期イコール、ショート法と限定 して考える必要はないと思いますよ。
排卵誘発の 方法はいろいろありますが、刺激周期のやり方だ けでもさまざまな方法があります。
一般的にはロング法、ショート法、アンタゴニ スト法などがあり、それぞれに特徴があります。
ロング法はFSH/HMG製剤の注射量が多くな りますが、卵胞の発育は比較的均等です。
ショー ト法の場合、注射量はロング法の場合よりも少な めですが、卵胞の発育はやや不均一なことも多い です。
アンタゴニスト法は前の2つの方法より卵 胞の発育はしやすいですが、やや高価です。
ショート法には、前周期の残存卵胞のリクルー トを抑えるためにピルを服用し、生理が始まって からショート法を開始する、ピル・ショート法と いう変法もあります。
それぞれの患者さんに適し た方法を選ぶことになると思います。
それ以外に低刺激周期採卵や、自然周期採卵な どもあります。
それでは、アンタゴニスト法はどうでしょうか。 また、なぜ主治医からアンタゴニスト法を止めら れているのかも気になります。
松山先生 沈丁花さんの質問内容を読んでみると、 二面性を持つ「アンタゴニスト法」という言葉の意 味の混乱があるようです。
アンタゴニスト製剤は、 視床下部から脳下垂体への命令をカットしますの で、アンタゴニスト製剤を使用する際にはFSH/ HMG製剤を併用しないと、卵胞は縮みます。
一般的にアンタゴニスト法といえば、FSH/ HMGーアンタゴニスト法を指していることが多 いです。
その場合、主治医から言われたように、 アンタゴニスト法がショート法に比べて採卵数が 減ってしまうことも場合によってはあり得ます。
沈丁花さんは、低刺激周期で排卵してしまうのを抑えるためにアンタゴニスト製剤を使いたいと申し 出たのでしょう。
しかしながら、単にアンタゴニス ト製剤を併用しただけだと卵胞が縮むので、FSH /HMG製剤の併用が不可欠となります。
主治医は アンタゴニスト製剤だけの使用はあり得ないという ことが言いたかったのではないでしょうか。
クリニックによっては、アンタゴニスト製剤の 注射の代わりに座薬で排卵を抑えるところもあり ますね。
また、低刺激周期と行ってもその薬の使い方はい ろいろあります。
排卵を抑えるために、クロミフェ ン製剤を連続的に飲んでいただく方法もあります。
子宮内膜が厚くなりにくいという欠点もあります が、私は好んでこの方法を提案しています。
AMHからの判断もある
その人にとってより有効な排卵誘発法の見つけ 方はあるのでしょうか。
松山先生 私はほぼすべての年齢の方にクロミフェ ン製剤を連続的に飲んでいただく低刺激周期採卵を提案していますが、ロング法、ショート法、アンタ ゴニスト法などの刺激周期採卵、薬をほとんど使わ ないいわゆる自然周期採卵などの選択には卵巣機能 の評価が必要と考えて、AMH(抗ミュラー管ホル モン)の測定を行っている施設もあるようです。
AMHの値をみて刺激方法を変えていくのもい いと思います。
たとえば、AMHの値が低い人は、 刺激周期採卵を行っても採卵数はさほど多くなら ないことが多いので、低刺激周期採卵をうながし てもよいでしょう。
沈丁花さんが低刺激で排卵してしまうということ は、クロミフェン製剤を期間限定で使っているから ではないかと想像します。
クロミフェン製剤を連続 的に飲んでいただく低刺激周期採卵では、まず排卵 がおこることはないだろうと思われます。
低刺激にもテクニックがある
松山先生なら、沈丁花さんのような方にはどの ような方法をおすすめしますか。
松山先生 クリニックによってスタンダードな方法は違うと思いますが、当院の場合は、主にクロミフェ ン製剤を連続投与する低刺激の排卵誘発法をとって います。
場合によっては、そこに少量のFSH/H MG注射を追加するなどして調整していきます。
沈丁花さんのように年齢の高めの方には低刺激法 は有利だと思いますよ。
ただし、クロミフェン製剤を使用すると子宮内 膜が薄くなりやすいので、ここでテクニックが必 要とされます。
内膜を管理しながら採卵を行えるようなクロミ フェン製剤の使い方もあるようですね。
当院では 行っていませんが、一日あたりの服用量を調整さ れているクリニックもあるようです。
このように、クロミフェン製剤の使用法や活か し方にはとても複雑な要因が関係しているので、 患者さんの状態をみながら次の手を打ちます。
も う一度、主治医の先生と低刺激法について相談し てみてはいかがでしょうか。