「家族のカタチを考える」<前編>

「家族のカタチを考える」<前編>

― 不妊治療における心理カウンセラーの役割 ―

内田クリニック院長 内田 昭弘 荒木 晃子 心理カウンセラー

患者さんにとって幸せな家族のカタチ、家族のあり方とは?

不妊治療において、医療と心理カウンセラーの連携とは?

生殖医療と不妊カウンセリングのエキスパートが本音を語ります。

生殖医療の現場に心理カウンセラー が入っているケースは少ないと思い ます。内田クリニックが取り組もう と思われたきっかけは?

内田先生 不妊のカップルは、精神 面での不安定な状態の中にいると感 じることが多く、メンタルをどうカ バーしていくのか、そのことが開院 のときから常に頭にありました。

僕 もスタッフたちも、精神的なフォロー について勉強することである程度は 対応できても、次の段階はプロのス キルを持っているカウンセラーでな いといい方には向かないということ がわかってきました。

それで、以前、 勉強会の講師をお願いした荒木先生 に交渉を重ね、 2 0 0 7 年 5 月か ら 1 か月に 2 日間、当院に心理カウ ンセラーとして来ていただくことに なったのです。

荒木さん カウンセラーが生殖医療の 施設で働くということは、島根では初 めてでした。

通い始めてもう 8 年目。 毎月、片道4時間かけて大阪から高速道路を運転して通っています。

内田クリニックで、カウンセラーの 役割は、どのように確立していった のでしょうか?

荒木さん まずは模索からでした。最 初の 1 , 2 年は戸惑いもありました が、いろいろとトライしながら道が 開けてきた感じがします。

内田先生 最初は患者さんのカウン セリングのみをお願いしていました が、やがてスタッフも対応してもら うようになりました。

その結果、院 内の連携や環境がよくなり、それが 患者さんに還元されているように感 じます。

僕自身も1か月間の出来事 を話したり、荒木先生のネットワー クから得られるインフォメーション を生かしたりしています。

荒木さん まずは、主治医や看護師さ んたちがカウンセリングを体験する ことで、どれくらい役に立つのか実 感していただく。

そうすると、患者 さんにも勧めやすいし、カウンセリ ングルームを訪ねやすくなりますからね。

相談内容はいろいろあると思います が、一番多いのは、どんなことですか?

荒木さん 人間関係ですね。

夫婦、実 の父母、姑、舅、義理の兄妹、会社 の同僚、友人関係など。

私は、家族 療法もしていますが、一般的に、味 方になるのは奥さんもご主人もそれ ぞれの親族です。

が、不妊カップル に関しては逆転現象も起きます。

ま た、どちらに原因があるかでも全然 違いますから、複雑です。

内田先生 治療の限界についての相 談も多いですね。

荒木さん あきらめさせてくれない 家族がいたりします。

あきらめてい ないと嫁でいられる、治療している限り妻でいられるとおっしゃる。

切 ないですよ。

患者さんに対して、ドクターとカウ ンセラーの立場の違いはどういうと ころにあるのでしょうか?

内田先生 そこはあきらかに違うと ころで、互いにそのあり方が重要だ と思っています。

治療の可能性につ いて、「本当に私たちはゼロですか?」 と問われたときに、「ゼロです」と、僕 の方から限界を告げるカップルは少 ないです。

「1%でも可能性があるな らば」と患者さんに言われたら、ドク ターの立場からその可能性を全力で 追求します。

荒木さん 患者さんから「1%の可能 性」という言葉が出てきたとき、カウンセラーの立場から言えば、そこに 含まれる意味と内容が大切になって きます。

患者さんがかける1%には どんな思いがあるのか。

そこにご主 人や家族のどういう力が働くのか。

協力があるのかないのか。

そして、 これから続く人生の中で、1%の可 能性に使ったこれまでの時間、プラ ス1%にかけるこれからの時間、そ ういうことを自問していただくこと が中心になってきます。

また、明らかに卵子や精子がない と分かっている方には、私たちがそ ういうことを伝えることもあります。

原因を抱えた方は、かなりの精神的 ダメージを受けることになるので、 そのときに、二人が共に乗り越え次 の選択肢に進めるよう、カウンセラー が支えていくことが重要と思ってい ます。

かなり、高度なスキルが求められる のでは? 内田先生 それは間違いなくスキル を持っていないとできないことです。

僕や看護職がいくら勉強しても、心 理の本質には絶対的に入り込めない。

今はもう間違いなく任せています。

荒木さん 患者さんは治療が長くな ると辛くなることが多く、出口が見 えない状態になることもあります。

でも、気持ちを整理し自分で方向を 決めようと思うことができたら悔い は残らないものです。

そのために、 カウンセラーは専門的なスキルや訓 練を積んでいます。

患者さんの心の中にあるものを自分 で整理し、次に進めるようにすると いうことでしょうか?

荒木さん 私たちは、患者さんが倒れ てしまわないよう気持ちに寄り添って 支えます。

でも、そのとき無理に力は 入れません。

その患者さんの立ち位置 のまま、倒れないよう心の手を添える だけです。私がやっていることは本当 に、基本的なことなのです。

また、カウンセリングルームは、 ずっと治療をやめられずに走り続け ている患者さんの休憩所にもなって 欲しいと願っています。

十分に悩ん でいいのに、納得のいく結果を導き 出そうとすら考えられなくなってい る患者さんもいらっしゃるので。

で すから、安心してカウンセリングルー ムのドアをノックしていただきたい ですね。

 

内田 昭弘 先生 島根大学医学部卒業。同大学の体外受精チーム の一員として、1987年、島根県の体外受精によ る初の赤ちゃん誕生に携わる。1997 年に内田ク リニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が副 院長をつとめる内科、心理カウンセリングをもっ て現在のクリニックの完成形としている。
荒木 晃子 先生 立命館大学大学院応用人間科学研究科修士課 程修了。同大学立命館グローバル・イノベーショ ン研究機構客員研究員。大阪の精神科クリニッ ク、松江市内の生殖医療施設内田クリニックの 心理カウンセラーとして勤務。島根家族援助研 究会主宰。著書に『A子と不妊治療』(晃洋書房) 他がある。

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