胚凍結の最新技術を導入する クリニックを訪問しました。
体外受精で培養された良好な分割胚や胚盤胞を凍結保存し、自然周期やホルモン補充周期で移植する、いわゆる凍結胚移植は、今や日本の生殖補助医療(ART)において欠かすことのできない技術です。
今回は大阪・西区南堀江のIVFなんばクリニックで、進化を続ける最先端の凍結技術や、安心で安全な医療を追求する最新の医療機器について、理事長の森本義晴先生の案内でご紹介いただきました。
最先端のARTと 凍結技術
エレベーターホールを抜けてロビーへ入ると、目の前に広がる空間はまるでモダンな高級ホテルのレセプション。
手をつないだカップルが楽しげに広いロビーを行き来する姿も、ごく自然な風景としてなじんでいます。
IVFなんばクリニックといえば、管理胚培養士を含む 15 名の胚培養士を抱える最新の培養室や、大学の研究機関に高度な凍結技術を移出するなど日本を代表する不妊治療センター。
とはいえ、そこは頭の柔らかい大阪人でO型気質の森本先生、開業当時から「いいことは何でも取り入れたい」と、理事長自ら率先して受胎気功やベリーダンスのレッスンなど、補助医療や統合医療を積極的に取り入れてこられました。
「気功は呼吸法の一つ。気の流れを整えると体にいいですよ」。
最先端のミトコンドリア研究に没頭する一方で、脳や体をゆるめる術として自らも実践されているようです。
日本は 胚凍結の先進国
もともとは繁殖や絶滅危惧種の動物の卵子を保存することを目的として、動物実験からスタートした胚凍結の技術。
それがヒトに対して応用されるようになったのは2000年頃のことだそうです。
森本先生にその歴史を振り返っていただきました。
「私たちがARTに関わり始めた1990年代、凍結法といえば胚をゆっくり凍結させる緩慢凍結法と呼ばれる方法のことでした。
しかもほんの 10 年くらい前までは、この小さな部屋の半分ほどもある大きな装置が必要だったのです」と、森本先
生。
現在、凍結胚を融解した後の胚の生存率も飛躍的に向上しており、緩慢凍結法で凍結していた頃、8割程度だった胚盤胞の生存率も、今では100%近くにまで達しているそうです。
「それがこのガラス化凍結法のすごいところ。
海外に比べて妊娠率が高いことも特徴で、私たちが普通に臨床で行っていることが学会で注目されます。
日本はそういう意味でも凍結先進国ですね」。
今まで2〜3時間かけて行っていた凍結作業が5〜 10 分で完了すること、胚培養士の技術と機器さえあれば、大きな装置が不要で安価な設備投資ですむことなどを背景に、ガラス化凍結法は急速に世界へと広まりました。
さらなる安全の先の 医療を求めて
IVFなんばクリニックが緩慢凍結法からガラス化凍結法に完全に移行したのは2005年。
その頃生まれたガラス化凍結の方法とは、小さなシートのようなものの上に胚を1、2個載せて、シートごと液体窒素の中へ「直接」浸して冷却する方法でした。
今もこの方法は日本の医療機関ではごく一般的に行われています。
しかし、万が一、その液体窒素が病原体に汚染されているとしたら?
「これは海外のIVFの学会において、しばしば議論の対象となるテーマです。
もちろん、過去にそのような例は世界中で一例も確認されていませんが、もっと胚を安全に、間接的に凍らせる方法はないだろうかと模索していたところ、出会ったのがこのRapidiでした」。
同院の培養室で実際に機器を操作する生殖技術部門の胚培養士、大住哉子さんがさらに詳しく解説してくれました。
「このストローの中に入っている鉄の棒と周りの液体窒素で、ガラス化保存の直前まで予冷却するため、液体窒素に直接触れなくても、急激に冷却された空気で胚が急速に冷凍されるのです。
冷却ストローの中に、先端に小さな穴のある棒を入れて凍結。
この小さな穴にガラス化保存液と胚を入れます。
ガラス化保存液が表面張力で膜を貼ることで、作業の際に用いる液の量が一定となり、作業のクオリティも保てます。
森本先生のRapidiへの信頼はその高い安全性に尽きるという。
「もし現状で 99.9%安全な治療だとしでも、その先の安全性を99.999……%へと高めていくのが私たちのポリシー。
この凍結システムは非常に当院の治療方針にマッチしているといえるでしょう」。
胚を凍結しても大丈夫?
胚はそのまま凍結すると細胞内に小さな氷の結晶ができ、細胞が壊れてしまいます。ガラ ス化凍結法は、それを防ぐために凍結保護剤で処理を行った後、−196℃で瞬間的に急速 冷凍する最新の凍結技術。凍結胚の保存期間は半永久的ともいわれ、IVFなんばクリニッ クでは、50歳の患者が45歳の時に凍結保存した分割胚の移植で、無事、出産に成功した という実績も。
Rapid-iとは?
スウェーデン・ヴィトロライフ社による世界 初の一体型・閉鎖型ガラス化保存システム(特 許取得)。液体窒素に胚が直接触れる従来の「開 放型」に対し、Rapid-iは液体窒素に触れるこ となく、液体窒素によって冷やされた「超低 温空気」によって間接的にストロー内の胚を 冷却する「閉鎖型」である点が大きな特徴。 感染症などのリスクに対する安全性の観点か ら高く評価される。従来型のガラス化保存シ ステムの使用は海外で正式に認可されていな いが、Rapid-iはアメリカのFDA(アメリカ食 品医薬品局)をはじめ、ヨーロッパ諸国の承 認機関で承認されている。