【医師監修】福井 敬介 先生 1989年、日本大学医学部卒業。卒業と同時に愛媛大学産科婦 人科に入局、愛媛大学大学院医学専攻科修了。2000年愛媛大 学産科婦人科学助教授。2001年、「高度な生殖医療をより身近 な医療として不妊カップルに提供したい」と、福井ウィメンズクリ ニックを開設する。A 型・やぎ座。オフでは、先日のゴルフで、 目標にしていたハーフ30台を達成! 多忙な合間に出掛ける月1 回のラウンドと、練習場での深夜特訓の成果とか。「練習場では 100 球で打ち止めるのが上達の秘訣と聞き、実践中です(笑)」。
しらほしさん(42歳) Q.現在42歳です。ショート法で15個採卵したうち、13個受精し、新鮮胚移植、凍結胚 移植を5回実施。最後の移植で妊娠しましたが、9週目に稽留流産。すべて初期胚によ る移植で、胚のグレードはグレード1=6個、グレード2=5個、グレード3=2個で した。初期流産は多くの場合、染色体異常などが要因で、その確率が年齢とともに高くな ることは認識していますが、6回の移植で成功しなかったので、質のいい卵子が採取でき なかったのでは? とも思います。今後も治療を続ける場合、採卵、胚移植方法のアドバ イスはありますか。ショート法での採卵、初期胚移植の継続でいいのか、少し不安です。
胚盤胞移植の優位性
しらほしさんは、6回移植しましたが結果が出ず、ショート法で初期胚移植の治療法に不安を感じていらっしゃいます。
福井先生 この年齢で 15 個採卵できたのは素晴らしいですね。
初期胚でもグレード2以上が 11 個もあります。
13 個中 11 個が良好胚だとすれば、形態上はそんなに悪い胚ではないと思います。
胚の見ためは正常でも、年齢的に染色体異常や機能的問題などの確率は高くなる傾向にありますから、次回は初期胚にこだわらず、胚盤胞でどこまで到達できるのか試されてはいかがでしょう。
これで前述の問題を回避できるかどうかはわかりませんが、妊娠率、着床率から考えると、何度も初期胚移植をするよりは、胚盤胞移植のほうがいいと思います。
ただ、この採卵数は多すぎる気もします。
この方の卵子の質は、それほど悪くないと思いますが、一般的に採卵数が 10 個以上になると、副作用の問題や卵子の質が低下する傾向にあります。
卵質の改善法
卵子の質が悪い場合は、質をよくすることはできますか?
福井先生 排卵誘発法を変える、またはサプリメントや漢方薬の併用、さらに最近は、糖尿病薬やステロイド剤を併用する方法も有効とされています。
排卵誘発は、凍結融解胚移植を視野に入れるのであれば、低刺激法もおすすめです。
ショート法は1回行うと2〜3カ月は期間を置く必要があるので、年齢が高い方はその間にも卵巣機能が落ちていく可能性があります。
回数を重ねる必要がある場合、低刺激周期法は副作用が少なく、胚移植できる機会も増えます。
さらに卵子の質が上がる可能性もあります。
凍結融解胚移植が有利
新鮮胚移植と凍結融解胚移植にも違いがあるのでしょうか。
福井先生 ショート法などで、卵子がたくさん採れた時は、凍結融解胚移植が有利とされています。
ショート法だと排卵誘発を促すために薬をたくさん使っているので、卵巣のホルモン環境は乱れています。
ですから、採卵と同周期に行う新鮮胚移植よりも、卵巣の環境を整えてから新しい周期に行う凍結融解胚移植をおすすめしています。
さらに、新鮮胚移植の周期で妊娠した場合、妊娠後に副作用が増幅する可能性もありますので。
この方については、これだけの採卵数があり、受精卵のグレードもいいですから、次回、胚盤胞の凍結移植を試されると、妊娠率がより高くなるのではと思います。
ただし、その場合でも流産の可能性は 40 〜 50 %あります。
これは年齢的にある程度仕方がないことだととらえて、諦めずに挑戦し続けていれば、いい結果につながると思います。
※ショート法:体外受精を目的に卵巣から採卵するため、ホルモン剤を使って排卵を誘発する方法の1つ。GnRHアナログ(スプレキュア ®、ナサニール ® などの点鼻薬)を月経開始とともに使用し始める。