体温が一定のままで高温期がこないのに 排卵しているというのはどのような状態なのでしょうか? 操レディスホスピタルの操 良先生に詳しく伺いました。
【医師監修】操 良 先生 岐阜大学医学部卒業。岐阜大学医学部附属 病院で 8 年間、不妊専門外来を担当し、 1992 年には岐阜県下初の体外受精に成功。 以来、500 症例以上の体外受精・顕微授精 に医師兼エンブリオロジストとして携わる。現 在、操レディスホスピタル副院長。医学博士。 漢方薬も積極的に取り入れた心と体に優しい 治療方針で、一人ひとりに丁寧に対応するオ ーダーメードな診療に定評がある。
ドクターアドバイス
基礎体温はあくまでも参考所見 ホルモンバランスを整えるために カウフマン療法や漢方も試みては
さくれれさん(33歳)Q.不妊専門病院に通い始めて3カ月。成熟した卵胞を確認後、 HCG注射を2周期行いましたが、体温が一定のままで排卵も しません。1回目はプラノバールⓇでリセット。そして2回目も 体温は上がらないまま、24日目に生理がきました。過去3 年 間測ってきた基礎体温表は、一度も高温期になった形跡がなく、 おそろしいほどガタガタです。先生は「排卵はしているんですけ どねー」と言いますが、二相に分かれたことさえないのに、排卵 しているとはどういうことでしょうか? HCG注射をしても排卵 しないなら、年齢のこともあるので、ステップアップしたほうが いいのでしょうか?
さくれれさん のデータ
■検査・治療歴
基礎体温で3年間、高温相を確認できず。
ホルモン検査、卵管造影検査、ヒューナーテスト、精液検査などの検査は問 題なし。
1周期目、エコー確認後にHCG注射をするが排卵せず、卵胞が残ったため プラノバール®にてリセット。
2周期目、クロミッド ® を3日目から1錠、周期14日目で22㎜になった ところでHCG注射をするも、排卵せず24日目でリセット。
プラノバール®を飲んだ時期のみ、初めて高温期があり。
■現在の治療方針
ステップアップを検討中。 葉酸、ローヤルゼリーなどの補助治療も継続中。
■精子データ
精液量:2.5 mL
精子濃度:2500万個/mL
精子運動率:70%
運動性:Ⅲ
基礎体温は参考所見
基礎体温でみる排卵期というのは、どれほど目安になりますか?
操先生 いわゆる教科書に書いてあるような基礎体温表というのは、実際には私もなかなか目にしたことがありません。
実際に表にすれば、かなりギザギザしたラインになりますし、低温、高温の区別があったとしても、なかなかハッキリとはわからない人が多いです。
定義上では 0.3 度上がればいいといいますが、それもかなり差が出にくい数値です。
当院でも、さくれれさんと同様に、プラノバールⓇを飲んでも体温が上がらず、かなりフラットな状態のままだったものの妊娠されたという方がいらっしゃいます。
ただ、気になるのが、2回目のリセットのところ。
これはクリニックで確認されたのでしょうか、それともご自分で、体温が上がらないまま生理がきたので排卵はなかったと判断したのでしょうか。
というのも、やはり排卵したかどうかという正確な判断基準の1つに、最終的に卵胞が消えているのを確認できているかどうか、ということがあるからです。
そしてもう1つは、排卵後のホルモン値。
いわゆる黄体中期のホルモン値が測れているかどうかということです。
さくれれさんも、ホルモン検査歴はあるようですが、実際、高温相になったことがないということは、高温相になってから測るべきホルモン値を測っていないということではないかと思います。
基礎体温はかなり個人差もありますので、それだけで排卵したかを判断するのはどうしても限界があります。
実際には、卵胞が消えていて、内膜の状態が厚くなって、きちんと排卵の状態になっていれば、基礎体温がガタガタであろうと、これは排卵している、ということになるはず。
逆に言えば、そこまで見ないとわからないということ。基礎体温はあくまでも参考所見として考えます。
黄体化未破裂卵胞の可能性
1回目は実際にHCG注射をしても排卵せず、残っていたようです。今後、ステップアップも考えているようですが。
操先生 排卵せずに残っている状態が続くということであれば、黄体化未破裂卵胞症候群(LUF)の可能性もあります。
LUFとは、体温は上昇するのに、実際には卵胞が破裂せず、排卵しないという状態です。
ただ、この場合でも、もともと二相がわかりにくい人は、高温相がないという認識を持つかもしれません。
LUFは、HCG注射をすれば排卵する場合もありますが、そうではないケースもあるのが厄介なのです。
しかも毎回起こるわけではなく、ある周期は排卵が起こらないけれど、3周期目あたりにポコンと排卵したりということが起こります。
ですから、そのチャンスを粘り強く狙う必要はあります。
また、器質的な問題で排卵したくてもできないという場合、たとえば、お腹の中に炎症があるとか、子宮内膜症などで卵子が飛び出るところにちょうど癒着がある場合などは、腹腔鏡手術の適応となります。
そして、そういう器質的な原因もなく排卵しないという場合。
もともと排卵というのは、プロスタグランジンという酵素やタンパク質分解酵素などが出て誘導されるのですが、そういう根本的な部分に問題がある場合は、やはり体外受精をおすすめします。
排卵しないなら卵子を回収する、という発想でステップアップを考えてみてはいかがでしょうか。
排卵確認をもう一度
今後は、どのように治療を進めたらいいでしょうか?
操先生 根本的にホルモンのバランスを整えるということで、カウフマン療法を行って、そのうえで排卵誘発をまた試みてはいかがでしょうか。
さくれれさんの場合は、排卵誘発法を変えたからといって排卵するというケースではないと思います。
私はよく漢方薬を使うのですが、西洋薬との組み合わせでホルモンのバランスを改善したり、排卵誘発の反応をよくすることも可能です。
たとえば、クロミッドⓇと温経湯の組み合わせなどですね。
ただ、いずれにしても、まずはホルモン検査の洗い直しが必要です。
ヒューナーテストや頸管粘液検査もクリアになっているようですが、頸管粘液は、ちゃんと量が多くなって、pH も変わって、精子を受け入れる状況が整うという状態は排卵期にしかありえませんし、ヒューナーテストも含めて、その検査結果から排卵が起こっていないということはありえません。
本当に排卵しているかどうかを、もう一度総合的に判断して、そこから原因や治療を探っていくことが大切だと思います。
※プラノバールⓇ:中用量ピルの1つ。性腺刺激ホルモン抑制作用を持つ。卵巣機能不全による不妊症、無月経、機能性子宮出血などに適応。
※HCG:成熟した卵胞を排卵させたり、黄体機能を維持・活性化 させる、胎盤性性腺刺激ホルモン製剤。排卵誘発療法に用いられる。
※カウフマン療法:卵胞ホルモン、黄体ホルモンの卵巣ホルモン剤を周期的に投与して、月経周期を整える。
※ヒューナーテスト:性交後、子宮頸管粘液を採取して、精子と頸管粘液の相性を調べる検査。採取した粘 液中の運動精子数など、精子の状態を顕微鏡で調べる。
※頸管粘液検査:通常、排卵期になると頸管粘液の分泌量が増え、精子が子宮頸管を通過しやすくなる。排卵を予測する目的で、この粘液の量・性状を調べる。