治療に専念していますが時間があるのに毎日孤独でつらくなってきました【医師監修】

不妊治療を続けてきて感じる孤独感やむなしさ……。 このような心の問題をどう解決したらいいのか、 あいウイメンズクリニックでお話を伺いました。

生殖心理カウンセラー 菊田 映美さん あいウイメンズクリニックでは、毎週火曜日の午後、1 回 50 分のカウンセリングを予約制で実施。また、毎 週木曜日と土・日には電話相談も受け付けている。菊 田さんは、同院でカウンセリングを担当するようになっ て6 年目のベテラン。患者さんの心理的支援だけでは なく、医師や看護師、胚培養士の間に立つコーディネー ター的な役割もしている。

ドクターアドバイス

苦しみと仲よく歩を進めていこうと捉えると 少し気持ちが楽になるかもしれません

まちゃさん(専業主婦・42 歳)からの投稿 Q.現在、不妊治療中で毎日が孤独です。通院の時期がいつになるか わからないし、採卵となると毎日通院するので仕事は辞めました。 だんだん暇になり、時間をかけて家事をしたり、資格の勉強をしたり。 それもやり尽くしてしまいました。昔の友人たちも主人も忙しく、 寂しくて仕方がありません。今は治療に専念する時期だと 自分に言い聞かせていますが、だんだん、治療がつらいのか、仕事を していなくて孤独なのがつらいのか、わからなくなってきました……。

カウンセリングについて

院長の伊藤先生と、週1回同院で不妊カウンセリングを担当している生殖心理カウンセラーの菊田映美さんに、カウンセリングの体制や考え方について伺います。まず、こちらでは個別のカウンセリングは行っていますか?
伊藤先生 毎週火曜日の午後、1回50 分のカウンセリングを予約制で実施しています。
カウンセリングは先生から患者さんにおすすめするケースが多いのでしょうか。
伊藤先生 患者さんが落ち込まれていたり、ご家族の問題などで悩まれていて、このままでは治療がスムーズに進められないと判断した時は、こちらからカウンセリングをおすすめする場合もあります。
そのようなケースは全体の2〜3割くらいでしょうか。
ほとんどは患者さんご自身から申し込まれることが多いようです。
当院では初診時に必ず、カウンセラーがいることをお話しします。
不妊治療中は、治療が長くなることでストレスが生じたり、「妊娠したけれど流産してしまった」など、いろいろ悩むこともあります。
ですから、「そのような時は、専門の女性カウンセラーがお話を伺うこともできます」と最初に患者さんにお話しして、安心して治療に臨めるような体制をとっています。

敷居を低く

カウンセリングというと、日本ではまだ一般的ではなく、なかには受けるのを躊躇される方もいると思うのですが……。
菊田さん カウンセリングはこころの病んだ人が受けるもの、もしくは、苦しくて、つらくてどうしようもない時に受けるもの、そうとらえている方が多いですよね。
当院では、資料による情報提供も心理支援になり、また、カウンセリングを受ける動機づけ、そして敷居を低くすることにも繋がると考え、待合室に数種類のリーフレットを置いています。
それを見て、「こんなこと、話していいのかな」と迷っていた方も、相談に来られるようになりました。
カウンセリングをした患者さんの心理状態が変わったと実感されることはありますか?
伊藤先生 すべてがカウンセリングによって解決されるとは限りませんが、思い悩んでいる状態から脱して、客観的にご自身を見られるようになるなど、少しでも変われる糸口を見つけることができているのではないでしょうか。
それは診察していても感じますし、治療のうえでもプラスになっていると思います。
菊田さん カウンセリングによって、状況が劇的にいい方向へ向かうというわけではありませんが、受けたことで、今後自分が進んでいく道へのヒントが得られたとおっしゃる方が多くいらっしゃいます。

患者さんの伴走者

患者さんにとってカウンセラーというのはどのような存在なのでしょうか。
菊田さん 私の役割は、患者さんのそばに寄り添うことだと思っています。
マラソンでいえば伴走者ですね。
ランナーに異変を感じたら、スーッと隣に行く。
そこで、何らかの助けが必要とのサインがあった場合は、今後、どういう走りをしていったらいいのかを一緒に考えます。
場合によっては前に出て引っ張ることが必要な時もありますが、ランナーである患者さんのペースを尊重し、見守り続けながらともに前に進んでいく、そんな存在でしょうか。
「アドバイスをする」というだけではないんですね。
菊田さん 人生のイニシアティブを握っているのは患者さん。
カウンセラーは、考えるべきこと、すべきことをアドバイスするというより、患者さん自身が納得のいく決定にたどりつくよう働きかける存在です。
「誰かに話したい」と思った時、その〝誰か〞になれればと願いますし、実際に来室に至らなくても、そういう存在がそばにいるということが支えになってくれればと思います。

最後に必ず伝えること

では、今回のまちゃさんの投稿について、菊田さんにお話を伺いたいと思いますこのようなケースの場合、実際にはどのような流れでカウンセリングを進めていくのでしょうか。
菊田さん 患者さんが安心してお話できる環境を整え、患者さんの語りに耳を傾けながら、赤ちゃんをなかなか授からないことが、患者さん、夫婦、家族、対人関係にどのような影響を与えているかを理解していきます。
カウンセリングを求めてこられた患者さんは、受け入れてもらえたということで安心し、共感されたと感じ始めます。
このカウンセラーは自分の身になって聴いてくれる人、という信頼関係を深めながら、問題の核心をつかみ、対処していきますが、最後に必ずお伝えすることがあります。
それは「苦しむ日々は決して無駄ではない」ということ。危機的な状況が人生を深め、豊かなものとし、その人を強くします。長い人生においては、つらいけれど苦しむことも大事。
あまり苦しみを嫌わず、苦しみと仲良く歩を進めていこうととらえると、少し楽になるかもしれません。
【医師監修】伊藤 哲 先生 順天堂大学医学部、同大学院修 了。順天堂大学医学部産婦人科 学講師、国際親善総合病院産婦 人科医長を経て、1999 年あいウ イメンズクリニック開院。日本生 殖医学会生殖医療専門医。O 型・ おひつじ座。いつも穏やかな伊藤 先生。菊田さんいわく「先生は本 当のジェントルマン。多くは語らな いけれど、必要な時はしっかりこ ちらを向いて答えてくれます」。
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