不妊治療をこのまま続けるか、もうあきらめるのか? なかなか結果が出せないまま、 ストレスを抱えているカップルも多いはず。 そんなときは、「どうして子どもが欲しいのか、 もう一度よく考えてみてほしい」 と、高橋先生は言います。
【医師監修】高橋克彦先生 慶應義塾大学医学部卒業。インターン時 代に立ち会ったお産に感激し、産婦人科 医を目指す。1990年に日本初の体外受 精専門外来クリニック、高橋産婦人科を 開業。後に広島HARTクリニックと改名。 2000年、東京HARTクリニック開設。 「日本初」の実績を次々と打ち立て、日本 の不妊治療界をリードする。穏やかに情 熱を燃やす、やぎ座のAB型。
ドクターアドバイス
不妊治療をあきらめることは、子どもをあきらめるの どもをあきらめるの ではなく、子どもを持たない人生を受け入を受け入れるのです
まるるんさん(看護師・39歳)からの投稿 Q. 38歳から不妊症のクリニックに通い、 不育症と診断されて2回流産しています。 人工授精をしましたがダメでした。 体外受精までする体力もお金もないし…… 主人も私も来年40歳。もうあきらめますかぁ~?
不妊治療を諦めるとき
もうすぐ夫婦で 40 歳を迎えるというまるるんさん。2度の流産も経験されていて、内心、子どもはもうあきらめないといけないかもと思っていらしゃいます。先生ならどうアドバイスされるでしょうか。高橋先生
まず、本当にあきらめられるのであれば、あきらめなさいと言うしかないですよね。ただ、本当にあきらめられるのならということですが……。
それが自分たちの生き方であって、子どものいない生活を考えられるのであれば、それも一つの選択肢です。
ただし、まだそこまで納得できていない、あるいは可能性があればと考えているのならば、一度は体外受精にチャレンジすることをおすすめします。
同じあきらめるなら、体外受精を1回くらいはやってみてからあきらめたほうがいいということですか?
後悔しないために・・・
高橋先生 基本的にはそうです。流産の原因が何であるかというのは難しい問題なんですが、赤ちゃんが育たないほとんどの原因は、良質な卵ができないこと。胚に異常があるから、結局は妊娠しても流されてしまうのです。
体外受精をすると、そのあたりの事実を知ることになりますから、将来、自分が子どもをあきらめたとしても、後悔をしないで済むということなんです。
また、当然、良質な卵がとれるということであれば、妊娠するチャンスもあるわけです。彼女の場合、年齢が 40 歳なので、この1年に決心すべきですね。妊娠するのなら、この1年でするでしょうし、1年でできなければ、 41 歳、 42 歳での妊娠はまず可能性が低いでしょう。
裏を返すと、この1年間で後悔のないようにしなければならないということですよね。
本当に諦めがつくのか?
高橋先生 そういうこと。何度も言うようですが、あきらめきれるんならいいんです。ただ、こういう風に書いていらっしゃるのは、本当はあきらめてないということですから。
みんな「なんで私には赤ちゃんができないの?」って思っているけど、人工授精の段階では、本当のところがわからない。ところが、体外受精となると、妊娠率も高い上に、妊娠できない理由もハッキリする。だから、彼女に関しては、1回だけでも試みる意味が十分あるというのです。旅行を1回くらい犠牲にしても、やってみる価値はありますよ。
当院では3回採卵してみて、3回ともいい受精卵ができない場合は、もうあきらめたほうがいいんじゃないかと説明しています。やめるかどうかは本人の判断ですが、 40 歳を超えた人の場合は、冷静な判断をする必要があるかもしれません。
体外受精とは、いつかできるだろ うと延々と続けるような治療じゃない。そりゃ、 46 歳でできた、 20 何回目でできた、なんていうケースもないことはないですよ。でも、それはもう例外の世界なんです。それを納得した上でやるのかということ。それなら、この1年で3回の体外受精を試みるのが現実的な方法です。
先生の治療方針は理にかなっていてすごく説得力があるのですが、それではすぐにあきらめられないという人も多いのではないですか?
夫婦の選択
高橋先生 単に子どもが欲しいのか、それとも親になりたいのか、「子どもが欲しい理由」を、もう一度よく考えてみてほしいと思います。子どもや家族が欲しいのなら、里親になる、養子を迎えるという方法もある。
それなら、子どもの将来のためにも親は若い方がいいから、早めに決断したほうがいい。将来的には、第3者からの卵子提供という道も開けてゆくでしょう。
そして、不妊治療をあきらめようとしたときに、今後どうするかということをよく考えてほしいのです。
そして、不妊治療をあきらめようとしたときに、今後どうするかということをよく考えてほしいのです。
こういうときは医師や看護師などの医療者よりも、心理カウンセラーへの相談が有効です。家族や親戚などを含めたバックグラウンドについても丁寧に聴き、夫婦の家族観を見つめ直す作業をともにしてくれる心理カウンセラーの存在が、不妊のチーム医療には欠かせません。
最終的には自分たちの生き方を問う問題なので、時間をかけてよく追求していっていただきたいと思います。