「家族のカタチを考える」< 後編 >

内田クリニック院長 内田 昭弘 ×荒木 晃子 心理カウンセラー (立命館大学客員研究員)

患者さんにとって幸せな家族のカタチ、家族のあり方とは?

限界のある不妊治療に、選択肢をもってのぞむということは?

生殖医療と不妊カウンセリングのエキスパートが本音を語ります。

今や患者さんの高齢化が進んでいます。患者さんの妊娠の限界についての知識は?

内田先生 この間、 30 代半ばで治療を始め て、現在 39 歳になっている患者さんに、「こ の先、妊娠しない可能性について考えたことありますか?」と聞いたら、「考えたことがない」と返ってきました。

今、患者さんたちの大半は、妊娠の限界についての知識や、子どもを授かることにおいて他の選択肢があると知って治療にのぞんでいるのかというと決してそうではありません。

だから、治療と平行して、一方でどんな選択肢があるのか知ってもらおうと、荒木カウンセラーから情報を提供してもらうようにしています。

荒木さん いろいろな知識を持つことは、ご夫婦にとってとても大切なことです。

私は、大学の研究で「患者さんが治療をやめた後の相談」、「子どもを授からなかった方のその後」について調査してきました。

また、授からなかった方、治療を終えた人たちがその後どのような人生を歩んでいるのか、そにどんな支援が必要に
なるのかという調査に入った時に、養子を迎えた方があることが分かってきました。

その方たちにインタビューをした際に、治療を終えてから養子を迎えたい、里親にと思った時に、どれだけ大変だったかという話が出てきたんです。

具体的に何が大変だったのでしょうか?

荒木さん まず年齢的な壁。

それまで治療を頑張ってきて 39 歳、 40 歳になり、やめる 時にはそれ以上の方もある。

何とか次に希望をつなげたいと養子を考え始めた時に、児童相談所や行政に出向いて相談すると、その時点で既に年齢というハンディがあるという事実が明らかになりました。

養子、里親になるには、「親になる資格」が求められます。

安定した収入、良好な夫婦関係と家庭環境、女性は少なくとも3 年間は子育てに専念できることなど。

さらに、子どもが 20 歳になった時に母親 が 60 歳以下であるとか。児童福祉の現場 には、そんな暗黙のルールがありました。

その見えない壁にぶつかり、せっかく治療をやめようと決意しても、やめたらその先に進めない状態になる。

そういう例がたくさんありました。

内田先生 医療が進歩してくると、「高齢化で妊娠しにくい人たちも妊娠できる」、ここ数年そういう流れでインフォメーションも世の中にたくさん出るようになりました。

そうすると、「私も大丈夫。私も!」と、 30 代後半から 40 代の妊娠を考える人 たちもアプローチをするようになってきました。

けれど、国の不妊治療の助成金も 43 歳以降は打ち切られるという現実が 出てきたように、必ず治療も限界が訪れます。

さらに、治療をやめた時、養子をもらうことも制度を生かすこともできない年齢になっていることもあります。

だからこそ、スタートの段階で選択肢をしっかりともっておくことが必要なんです。

患者さんが選択肢をもつことの必要から生まれたのが冊子「ファミリー・aim・パスポート」ですね?

荒木先生 不妊治療に通ってくる患者さんたちは、子どもを授かりたい、家族をつくりたいから医療機関に通ってこられるわけです。

私は、それは医療現場にだけ任せるべきではないと思っています。

また、私はカウンセリングルームに座り、患者さんを待つだけがカウンセラーの在り方ではないと思っていますから、当事者や前に進んだ人たちのインタビューをして歩きました。

そして、「これだけの思いをするんだ……」ということを冊子にまとめて、治療に入ってこられた方に最初に読んでいただいて、知ってもらおうと思ったんです。

内田先生 最近は、初診の方に必ず手渡ししています。

この冊子からいろいろな状況や方法を知ってもらい、ご夫妻で動いてくれたらと願っています。

そして、治療を受けながら児童相談所へ養子を迎えるための研修に行ったり、卵子・精子提供のシステムや概略を確認したりするのもいい。

いろいろな選択肢があることを、妊娠を目指すと決めた時に分かっていたら、治療の終わりは次のスタートではないわけです。

今を過渡期とするなら、これからは、そういうことをやっていけるようになりたいです。

冊子を読んで気持ちが沈むという患者さんもあるのでは?

荒木さん 当初、「これを患者さんに渡すのは残酷な気がする」というスタッフの意見があったんです。

確かに、冊子には生殖の限界、待ち構えている児童福祉の現実などが書いてあります。

正しい情報が必ずしも喜んでもらえるとは限らない。

でも、不妊には、社会も医療もどこを向いても厳しいです。

だからこそ、現実に向き合っていけるご夫婦になっていただかないといけない。

私は、困った時にはカウンセリングに振ってくださいと言います。

先生が困っ5ているときは患者さんも行き詰まっているときだから。

ところが最近、ちゃんと困る前に振って来る。

ということは患者さんも、突き当る前にどっちに行くのか道を見つけられるようになってきた、ということです。

内田先生と荒木カウンセラーとのチーム力が上がっているということですね。

内田先生 このまま私だけが抱えていたら、多分、何も変わらない。

私の力だけでは、その家族を幸せにできないと思います。

最初に話した 39 歳の患者さんに「妊娠しない可能性」のことを告げられたのは、荒木カウンセラーがいるからです。カ

ウンセリングを受けたら気持ちが整理され、最終的にご夫妻で着地点をしっかりと見つけてくれるだろうとイメージが持てるからです。

荒木さん カウンセラーが持っているのは鍛えられた精神力と学んだ知識、それを活用した応用力や適用力です。

内田先生とは全く領域がちがいますが、だからこそのチームであり、本当に信頼できるドクターに出会えたと思っています。

内田先生 これからも両輪で歩みましょう。

 

右)内田 昭弘 先生 島根大学医学部卒業。同大学の体外受精チーム の一員として、1987年、島根県の体外受精によ る初の赤ちゃん誕生に携わる。1997 年に内田ク リニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が 副院長を務める内科、心理カウンセリングをもっ て現在のクリニックの完成形としている。左)荒木 晃子 先生 立命館大学大学院応用人間科学研究科修士課 程修了。同大学立命館グローバル・イノベーショ ン研究機構客員研究員。大阪の精神科クリニッ ク、松江市内の生殖医療施設内田クリニックの 心理カウンセラーとして勤務。島根家族援助研 究会主宰。著書に『A子と不妊治療』(晃洋書房) 他がある。

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